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第18話 勇者ランドール
魔王城の玉座の間に戻る。
剣を構えたスカラと杖を構えるユリネリアが驚愕の顔をしていた。
「まさか……、まさか、ヘルクライン……なのか?」
スカラが力なく問う。
目の前のヘルクラインは背中から羽が生え、頭には角を伸ばしている。
それだけでも充分、魔族堕ちした見た目なのだが。
恐らく、それ以上に二人が驚いているのは、姿の方だろう。
ヘルはちんぽに貞操帯を付けているだけで裸だ。
それがデフォだから、見慣れている魔王たちは何とも思わないが。
(最初に来た時を思い出すと、一番変わったのってヘルかもなぁ。そりゃ、ビックリするか)
スカラとユリネリアの気持ちが、魔王にもちょっとだけ、理解できた。
「ランドール様ぁ、あれ、誰?」
ランドールの背中に巻き付いて、ヘルが問う。
「お前の従兄弟と、シャムルの魔法の先生だってよ。覚えてねーか」
「知らなーい。喰っていいの? 遊んでいいの?」
「遊んでいいよ。喰うのはダメだ」
「はーい。楽しそうだねぇ。あの騎士、良い雄っぱい」
ヘルが嬉しそうにランドールの周りを飛び回る。
貞操帯の上からちんぽをランドールに叩かれて、痛気持ち良さそうにしている。
「そんな……、王国一誇り高い剣士が。誰よりも清い浄化魔法の使い手であったヘルクラインが、あんな姿に……。誇りを守って死ぬことすら、できなかったのか」
スカラの言葉にシャムルが顔を歪めて舌打ちした。
剣を構えたスカラが魔王を睨み据えた。
「剣士の誇りを踏みにじり、命を弄ぶ悪魔め。絶対に許さない。俺をこの場に招いたことを後悔して死ね、魔王!」
スカラが怒りに任せて突っ込む。
「待て、スカラ! 無策で突っ込むな!」
ユリネリアが魔法で援護する前に、スカラの体が吹っ飛んだ。
「お前は魔王様には触れねぇよ。俺がいるもん」
ランドールがスカラの大きな体躯を蹴りだけで吹っ飛ばしていた。
「魔王軍団長ランドール様を殺さなきゃ、魔王様には辿りつけねぇぜ」
ランドールがスカラの髪を掴んで顔を持ち上げる。
「貴様っ、離せ! くそっ、負けるものか」
スカラが息を荒くして懸命に落とした剣に手を伸ばしている。
「ランドール……、まさか、勇者ランドール様?」
ユリネリアが目をひん剥いてランドールを見詰めた。
「あ? お前、俺を知ってんの? ……あぁ、もしかして、昔の仲間か。魔王軍に囲まれた時、俺を囮にして逃げたクズの一人。見た目も肩書も変わってて気が付かなかったわ」
ユリネリアがランドールから目を逸らした。
魔王は昔を思い返していた。
「そっか、百年前のパーティにユリネリアもいたんだ。じゃぁ今、百五十歳くらいか。そう考えると若作りだね」
「百年前って、魔王軍を半分以下まで倒しまくった勇者パーティですか?」
シャムルの問いに、魔王は頷いた。
「正確には、勇者一人で魔王軍半分以下まで殺したんだよ。パーティの他のメンバーは魔王を見て逃げちゃったから。この子、強いなぁって思って、気に入ったから魔族にしたの」
シャムルがランドールに視線を向けた。
「それが、ランドールでしたか。道理で強いはずだ。……ランドール、勇者ランドール。聞き覚えがあります。恐らく、戻らなかった英雄として隠蔽されたリンデル王国の皇子ですね。なるほど、他人の気がしないのは、そのせいか」
シャムルが一人、納得している。
その目が今度は、ユリネリアに向いた。
「ふふ。御師匠様、初めて貴方に親近感が湧きました。いいや、親近感ではないですね。この感情は何と表現すればよいのでしょう。仲間を見捨てて逃げて大陸一の大魔導師となった貴方と、魔族と一人戦い抜き自分が魔族となった男は、どちらが勇敢で誉れ高いでしょうか」
シャムルの目が愉悦の笑みに歪む。
嬉しそうだなぁと魔王は思った。
「私は! ランドール様の勇気に報いるために鍛錬し、魔法を鍛え、大魔導師となった。称号など後付けに過ぎない。私が欲しかったのは力だ! 魔王を倒せるだけの力を得て、ランドール様に報いようと」
ランドールが投げ付けた風の刃がユリネリアの頬を掠めた。
「ごちゃごちゃ、うるせぇ。殺すなって命令だから今は殺さねぇが、魔王様に手ぇ上げんなら、てめぇを殺すぜ。俺にとって一番大事なのは、魔王様だ」
迷いのない真っ直ぐな殺意が、ユリネリアに向いた。
「ランドール様……。貴方をこうしてしまったのは、私たちですね。あの時の私の未熟さが貴方の心を殺した。せめて今、報いることはできなくても、魔王を討ち取り貴方もシャムル殿下も人に戻します!」
ユリネリアの足下に旋風が渦を巻く。
強い魔力のうねりが柱のように迸った。
「俺は望んで魔族になって魔王様が好きだからココにいんだけど。自己満足野郎は面倒くせぇな」
ランドールが苦々しく吐き捨てた。
「同意しかないです。過去の過ちへのリベンジなら、一人でしていただきたい。巻き込まないで欲しいものです」
シャムルが同じ顔をしている。
確かに、ランドールとシャムルは根っこの部分が似ているかもなと魔王は思った。
「二人とも鬱陶しいって思うなら、さっさと性奴隷にしちゃおっか。魔王軍で使う兵隊にしようと思ってたけど、ランドールが嫌なら餌に回すよ?」
「どっちでもいいぜぇ。いればこき使うし、穴も使うけど」
「是非、輪姦用にしていただきたいですね。正義の仮面をかぶった悪漢など魔族のオナホで充分です」
ランドールが頭を掻きながら面倒そうに返事する。
シャムルは先ほどまでとは打って変わって楽しそうに氷の笑みを浮かべている。
「じゃ、とりあえずは奴隷ね」
久しぶりに戦っちゃおっかな、と魔王様はワクワクしたのでした。
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