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第11話 幸せを願うという身勝手

 まただ。また、俺は大事な時に気を失って。  今度目を覚ますのはどこだろうか。  もう嫌だ。戦えずに終わるのは、もう嫌だ。  いちは夢の中の遠い意識の中で、ジオル島で捕虜になり、失意のまま本土に戻る時のことを思い出していた。  いちは一先(ひとま)ず本土に移され、一番近い軍の医療班に任された。アラタの言付けによってそこに現れたのは八代バーンハード海軍大佐。彼は昔から北葉月家と縁が深く、アラタのことも甥のように可愛がり、子供の頃からよく知っていた。  背が高くガタイも良く強面な見た目だが、それに似合わない優しい声の持ち主だ。 「様子はどうだい」 「おや、あなたがこんな僻地へ来るとは、一体何事かな」  年老いた軍医が苦笑を零し、いちを見下ろす。 「この子は幸運の持ち主のようだね」 「可愛い甥っ子の頼みだからな」  悪戯に笑ってバーンハードはいちの髪を撫でた。 「まあ、この子のことは僕が責任を持つよ」  するといちがむずがゆそうに目を覚ました。しばらくぼんやりした後で、辺りを見回す。 「……俺」 「まだ死んでないよ」  縁起でもないことを言って笑ったバーンハードを見て、いちは驚いた顔をした。 「どうかしたかい?僕と君は初対面なはずだけど」 「ああ、いや、その……知り合いに似てて」  少し考えた後にバーンハードは尋ねる。 「アラタのこと?」 「……知り合いなのか」  いちの返事に笑ってまた尋ねた。 「全然似てないじゃないか」 「うん、落ち着いて見たらそう思う。でも……雰囲気とか、なんだろう、話し方?」  なんか嬉しいなあ、と呟く大男に今度はいちから質問する。 「あんたは、誰?」 「僕は八代バーンハード、ユ国海軍大佐だよ」  海軍大佐。海軍……。口の中で繰り返していちは途端に畏まった。 「あのっ、すいません、俺!」 「気にすることないよ、敬語なんて」 「俺を戦場に帰してください!」  その言葉にバーンハードも軍医も固まり思わず聞き返した。 「ど……どうして?」 「帰りたいんだ!こんなとこにいられない!!」  戦場に向かって「帰りたい」とは変な話だ。彼に帰る故郷などないからなのかもしれない。ヤモクの仲間を失って、どこかおかしくなってしまったのだろうか。  いち。君はニンゲンなのだ…と、バーンハードは言いかけてやめた。 「泳いででもフートに戻る、最後まで戦うんだ!」  勇ましく吼えるいちに軍医は何も言えずただ閉口した。責任者であるバーンハードの意見を待つ。 「あのね、いち君。落ち着いてまずは僕と話そう」  いちは強く肩を押さえられて、思わず起き上がらせていた体を寝かされる。その視線には有無を言わさぬ強い意志がこもっていて、一言も抵抗出来なかった。 「アラタから君のことを頼まれている。君を保護し、北葉月家に養子として迎え入れるよう」 「養子?」  すぐには理解できなくていちは間抜けに鸚鵡返しをした。 「ああ、君は北葉月いちになるんだ」 「ち、ちょっと……」 「このまま首都に戻り、戦争から離れて幸せに暮らすんだよ」  アラタもそれを望んでる。 「君の帰る場所は戦場じゃない。あの家だ」  感動の止(とど)めとばかりにバーンハードはそう言ったが、予想に反していちの顔には怒りが浮かんでいた。 「……あれ、いち君?」 「ぜっっっっ………たいに、嫌だ!!!」
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