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持つべきものは友
『ひっさしぶりだなー。那生、元気にしてたか?』
何年ぶりかに聞く冠野傑 の声は相変わらずの鼻声で、季節関係なく花粉症に悩まされているのも学生時代と変わらないなと、懐かしく思った。
「ああ、元気だよ。傑は……って声聞いたらわかるな、元気なの。鼻声だけど」
『何だよ、人を能天気みたいに言って。こう見えても俺って繊細なんだからな』
電話の向こうから届く明るい声に、楽しくも共に苦労した学生時代が蘇ってきた。
「そうだった。傑の繊細な縫合手腕は、同期で一番だったもんな」
『だろ? 将来有望なこの外科医、冠野先生の右に出るものなどいないんだよ』
声だけで姿が見えなくても、腰に手を当て仁王立ちしている様子が目に浮かぶ。
傑の明るさには、随分と助けられた。神宮のことを思い出し、顔が見たくなっても傑と、バカやってれば辛さはマシだった。
「はいはい、傑が優秀なのは分かったから、そろそろ本題に入ってもいいか?」
『えー、何だよ。もっと聞けよ俺の武勇伝を』
「それはまた今度飲みながらでもゆっくり聞くよ。それより傑って今も四聖だっけ?」
近況報告もそこそこに、那生は電話をした目的を果たそうとした。
「いや、俺、今は鳩摩 総合にいるんだ。四聖にいたのはフェローの二年間だけなんだよ』
「そっか……」
『何、四聖がどうかしたのか?』
「あのさ、四聖の院長って名前なんて言うんだっけ。まだ覚えてる?」
『院長? 久禮先生だよ。久禮慎太郎 』
──久禮……。周君の言ってた名前だ。
ただ、院長の下の名前までは周もわからないから、聞いたところで確認しようがない。
「その院長に子どもがいるとかって知らないかな」
『子ども……? さぁどうだったかな。なんせ下っ端なもんで、そんな偉いさんの情報なんて入ってこないよ』
「だよな……」
同じ立場として、傑の言ってることはよくわかる。カンファレンスには出るが、幹部会や部長会などに出席できる立場じゃないと院長と会う機会などない。あるとすれば入所した時に参加する、辞令交付式くらいだろう。
『よくわかんねーけど、俺と一緒にフェローだった奴がそのまま四聖に残ってるから聞いといてやるよ』
「本当に?」
『ああ。院長に子供がいるかどうかだけでいいのか?』
「あ、うん。頼む!」
頭の回転が早い傑は、那生が説明せずとも欲している答えを瞬時に察してくれる。尚且つ、相手が聞いて欲しくなさげだと触れてもこない。
気心しれた友人は、任せとけ、と快く引き受けてくれた。
『わかる範囲で調べとく、また連絡するわ』
余分な物を削ぎ落とす会話は後味スッキリで、傑に感謝しながら那生は電話を切った。
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