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知りたかったこと
お手数ですが明日、署にきてください──。
南條に約束を言い渡され、帰宅を許された那生たちは、神宮の車でマンションまで戻って来た。
二人とも身も心もくたくたで、神宮を部屋に迎入れることに身構える余裕もなく、那生はいつものように部屋の鍵を開けて神宮と一緒に帰って来た。
「……周君、南條さんに許可もらって、警察に付いて行ったんだよな。よかったな」
リビングに入りながら、那生は背中にいる神宮に呟いた。
「そうだけど。那生、その質問三回目だぞ。病院を出た時も、車に乗ってたときにも言ってたな」
「え? そ、そう……か。悪い……疲れてるのかな」
周のアパートで拉致されたのが早朝で、今はもう夕方だ。体は確かにぼろぼろだったけれど、さっき口にした返事は嘘だった。
正直に言えば疲弊はしている。でも、それを上回る緊張が、那生の思考をおかしくさせていた。
那生は自分の今の気持ちを紛らわせるよう、カーテンと窓を開けて空気を入れ替えた。
「えっと、何か飲む? ビールは……ダメだな、車だし。珈琲でも、あ、そっか先にメシ食うから食後のがいいか。神宮、お茶か炭酸水どっちが──」
キッチンで冷蔵庫を開けながら動揺を隠す言葉をつらつら並べていると、背中に気配を感じた。振り返ると、すぐそばに神宮が立っていた。
「じ……んぐ──」
「那生」
言いかけた名前を言下に遮られ、真剣な眼差しを向けられて、思わず目を逸らしながら「な、に」と聞いてみた。
「お前に聞きたいことがある。だから疲れてるのを承知でここへ一緒に帰ってきたんだ」
「き、聞きたいこと?」
神宮の言葉をなぞりながら、頭の中の引き出しを引っ掻き回した。
神宮は何を聞きたいんだ。高校以来会ってなかった俺に。
立ち竦んだまま言い淀んでいる神宮をリビングに誘導し、お茶を入れてテーブルに置いた。
どちらからも何も言わないでいると、開け放った窓から、車やバイクの音が微かに聞こえてくる。
チラッと神宮を見ると、湯呑みに手もつけず、黙ったままテーブルをジッと見ていた。
那生が沈黙に耐えきれず、話って──と口にしかけた言葉と同時に、神宮が話し始めた。
「那生、同窓会の日に奈良崎と話してたろ、高二のときにご両親が、その……」
両親を失くし、親戚もいなかった那生を支えてくれたのは奈良崎だ。
大人になって同窓会で再会し、当時のことに対して礼を言ったのは後悔していないし、今でも感謝している。
奈良崎に酷い目に合わされたけど、高校生の那生が担任の奈良崎に救われたのは事実だ。
「両親が死んだ話か……。でもそれは当時説明したろ? 葬式やら何やらで休んでたしさ」
「ああ。那生と同じクラスになったのは高一のときだけだったから、ご両親のことも、学校を休んでいたこともあとで知った」
クラスが違うんだ、それは当たり前のことだと思う。それの何が気になるんだろううと、首を傾げた。
「あとで知ったからって気にすることじゃ──」
「俺が言いたいのは奈良崎に礼を言ったことだ。ご両親が亡くなったことで、あいつに礼を言うことなんかあるのかなって……。同窓会のとき、俺が来たタイミングだったからさ、お前が奈良崎に頭を下げているのを見たのは。だから気になってたんだ」
眉根を寄せて苦しそうな顔をする神宮を見て、那生は不思議に思った。
なぜ、神宮はそんなことを気にするのだろう、と。
奈良崎と交わした会話に、特別変わったところはなかったと思えるのに。
「神宮が何で気にするのかわかんないけど、先生に礼を言ったのは……」
口にすることに躊躇してると、神宮に頭を撫でられ、「言いにくいことだったらいい」と、微笑まれた。
「いや、平気だよ……。俺さ、ドラッグを服用したとこを先生に見られたんだ。意識が朦朧としてたのを先生が助けてくれたんだ、だから礼を──」
「ドラッグって、那生、お前……何でそんなもんを──」
神宮が目を見開いてこちらを見ている。
そりゃそうだ、あの日、突発的に起こした自分の愚行なことを、改めて友達に言う必要はない。
「ごめん、ずっと黙ってて……」
「……お前、いつそんなもんを……」
動揺を隠しきれない神宮が睫毛を伏せてしまった。こんな顔をさせたくなくてずっと話さなかったし、何より自分が忘れたかったことだから、言いたくなかったってのもある。
「俺の両親が交通事故で死んだとき、葬式で親戚の人が話していたのを聞いたんだ。両親は実の親じゃないってのを」
「えっ!」
「もー、びっくりだよな。今まで何も疑わず、親子やって来たってのに」
「な……お」
予想外の告白に神宮が愕然とした表情で、言葉を詰まらせている。
「おまけに親戚に借金してたみたいで。俺の耳に届いて来たのは事業に失敗した自殺じゃないのかって雑音ばっかだった……」
「那生……両親とは仲よかっただろ?」
「うん。両親はとってもいい人だったよ。今思えば他人の俺を普通に育ててくれてたんだもんな。だから心無い人の言葉があの時の俺には余計に悲しかったんだ。俺を引き取ったのも、子供ができなかったからだって、顔も知らない親戚が言ってた……」
葬式の日のことが鮮明に蘇り、胸が苦しくなる。
両親と血が繋がってないのだから、親戚とも当然他人だ。
誰が好き好んで天涯孤独になった、他人の子供の面倒を見るのか。
当然、そんな人間は誰一人いなかった。
「お前、大人の声を聞きたくなくて、そんなもんに手を出したのか……」
神宮の言葉に那生は黙ったまま、否定をしなかった。
「……両親が亡くなって、葬式やら色んなことに追われててさ。住んでた家も、借金を返すために売るって言われた。俺はたった一日で、親も住む場所もいっぺんに失くなってしまったんだ。未成年だから必然的に施設へ行く話が出たよ」
「それって、養護施設のことか?」
神宮の質問に那生は無言で首を縦に振った。
「俺も覚悟したよ。もともと孤児だったんだ、元の場所に戻るだけだろって言い聞かせた。落胆してたとき、葬式に参列してくれた先生が親戚の人に言ったんだ、一緒に住むのが無理なら、せめて保証人になってくれと」
「保証人って、部屋を借りる?」
「そう。借金も家を売ったお金と保険金で多少は残るはずだって。先生は知り合いの弁護士に頼んでくれて、返済の手続きやら残ったお金を息子の俺に全額渡るように手配してくれたんだ」
ここまで一気に話すの、那生はお茶をひと口飲んで、続きを口にした。
「高校生の俺に、葬式、墓、借金、部屋を借りる、って、ちんぷんかんぷんな手続きを全部、先生がやってくれたんだ。ほっとくと、親戚連中のいいようにされかねないって思ってくれたんだと思う」
「だから那生は、先生を守ろうとしたんだな」
「……結構世話になったしね。おまけに恩を仇で返すみたいにドラックなんかに手を出したからさ。いくら自暴自棄になってたとはいえ」
ソファに座る神宮の足元に座っていた那生は、あぐらから膝をたて、体操座りのように自身の膝を抱えた。
無意識に体を小さくし、過去の情けない自分を体の中へ閉じ込めるように。
「でも、薬で気を紛らわせたかったのは、両親の死や心無い親戚だけが原因じゃなくて……」
「じゃなくてって、他にもあるのか?」
座ったままの神宮が身を乗り出し、那生の体に近づく。
緩くウェーヴした髪が、頬に触れそうで触れないくらいの距離まで。
「バタバタして悲しむ間も与えてもらえないし、でも学校は普通に授業もテストもあるだろ。正直、俺はどうでも良かった、学校も進路も。だから、自分の気持ちを浄化させようと──」
「浄化? 何だ、それは」
鼓動が煩いくらい急き立ててくるから、自然と生唾を飲み込んだ。
ふと、周の顔を思い出し、彼の勇気を見習うように。那生は意を決して口を開いた。
「神宮の……席に座ったんだ。机に触れて、頬づりしてお前を感じてた。本人に触れることは許されないことだから」
那生の言葉で神宮が息を呑んだのがわかった。
男に好かれるなんて、気分のいいもんじゃない。ああ、今日でたった一つ、残っていた拠り所を失ったと思った。
「那生、それ……」
「ごめん。キモいよな。でもあのとき、机の持ち主の神宮に見られて。だから俺、焦ってパニックになって。まさか本人に目撃されるなんて思わなかったからさ。恥ずかしかったのと、嫌われてしまうって怖くなって……逃げたんだ」
必死で笑顔を意識し、那生は会話の隙間を作らないよう言葉を埋め尽くしていった。
「ずっと親友だった神宮に、俺の邪な気持ちがバレて、友達でいることを拒否されたらどうしようって思った。……だから怖くなってそのまま屋上に向かったんだ」
平静を装っているつもりでも声は次第に涙声になり、虹彩が雫を含んで膨れ上がってくる。
「那生……俺は──」
「俺はこの時、両親と親友をいっぺんに失くしたと思ってしまって、どうしていいかわからなくなってた」
「それで薬なんかに手を出したのか……」
無言で首を縦に振り、那生はそのまま顔を伏せた。
両親の葬式の日、衝動的にネットで検索して薬を買った。それをお守りのようにポケットに忍ばせていた。
使うか使わないかわからなかったけれど、小さなピンクの錠剤を持っているだけで安心した。
心が耐えきれなくなったら、これを飲み込めばいいだけだ、と。
その日は、六畳一間の古くて小さなアパートに引っ越した翌日に訪れた。
神宮に目撃された最悪の日……だった。
「……薬でフラフラしてる俺を、奈良崎先生が見つけてくれたんだ。俺が屋上へ向かう姿が尋常じゃかったらしくて、追いかけて来てくれたんだよ」
「だから、あんなことされた今でもあいつの事を気にかけてんだな」
「ああ……。とんでもない人だったけど俺にとっては命の恩人だったし、当時、頼れる大人はあの人だけだったからな……」
「お前は馬鹿だ……」
唐突に非難され、那生は泣き顔でムッと神宮を睨み返した。
「そうだよ、俺は馬鹿だ。だからこんな、馬鹿で気持ち悪い俺のことなんかはほっといてくれ。今日も、もう帰った方が──」
「でも、もっと馬鹿なのは俺の方だっ。俺がお前を屋上まで追いかけていけば良かった。奈良崎なんかじゃなくて、俺がお前を救いたかったよ」
目の色を変えて訴えてくる神宮に、那生がポカンと口を開けていると、突然、手を取られて握り締められていた。
「じ……んぐう。どうしたん……だ」
「お前は本当に馬鹿だ……人の気持ちも知らないで」
手を握ったまま神宮が項垂れている。
那生は顔を覗き込んで、「人の気持ちって?」と、聞き返した。
「……お前が座ってた席は、晃平の席だ」
「え? こ、こう……へい?」
「そうだ。あの席は晃平の席で、俺はその後ろだ」
「え! う、嘘だ。だ、だって俺、あの席で座ってる神宮を何度も見たよ」
気が動転して狼狽えていると、額を指で突かれた。神宮が拗ねたような顔で那生を見ている。
「いつだったかは覚えてないけど、晃平より俺のが背が高いから前が見えづらいって、あいつが文句言うんで変わってやったんだよ。だから俺があいつの席に移動したの」
「そ……んな。じゃ、俺は……」
「那生は晃平の席に触ったり、頬擦りしたりしてたんだよ」
神宮が語気を強くして言い切ると、そっぽを向いてしまった。
「俺って本当ばか……」
「ショックだったよ。那生は晃平が好きなんだって思ったから」
「こう……へいの机に俺、頬づり……したんだ」
「そう。それにな、俺の方が先にお前を好きになった。でも、これも俺は馬鹿だったんだ。若気の至りじゃないけど……」
──今、神宮はなんて言った? 俺の方が先に好きになったって、それって……。
確かめようと神宮を見ると、握られていた手に力を込められて離そうとして来ない。
それを答えだと思っていいのかと、嬉しく思いながらも続きの言葉が気になり、語られるのを待っていた。
「俺さ、高校入学してバスケ部に入ろうと決めてたんだ。やったことないからルールなんてわからないけど」
「バスケ部に? 初耳だ。でも何でやったことないバスケをしようと思ったんだ? それに、結局バスケ部に入ってないし。俺は一緒にやりたかったな」
「それはな、入学して那生を見つけたからだ」
神宮の言っている意味がわからず、那生が首を傾げていると、
「那生を探すための理由でバスケをやろうって思ってた。でも、奇跡的に同じ高校だったんだ。バスケをしなくても会える。だから入部はしなかった」
「ちょ、ちょっと待って。意味がわからない。俺を探してた? 何で? 神宮は高校より前に俺のことを知ってたっていうのか?」
那生の質問に、神宮は知っていたと、顔を逸らしたまま答えていた。
「中三の総体んとき。那生みたいな運動部の三年生は最後の試合だろ? 俺のダチもそうだったから、最後に試合を観に行ったんだ。その時、相手の学校が那生のいた中学だった」
「え、総体の試合観にきてたのか。でも、どの試合だろう……。俺ら敗者復活戦で何とか三位になれたけど、その試合かな……」
首を捻って考えていても、ギャラリーのことまで覚えてない。
「どの試合かは俺にもわからない。会場も知らない学校だったし、覚えてないな。でも俺はそこでお前にここを持ってかれたんだ」
そう言って、神宮が人差し指で自分の心臓のあたりを指さした。
「意味が……わかんないよ、神宮」
「ダチと那生の試合は、応援するのにコートのすぐ横で観戦できたんだ。バスケを間近で見たことなかったから、俺はコートのすぐそばでダチを応援した。両チームの点数もせってて試合が白熱してきてさ、俺も夢中で応援してた。その時、コントロールを誤ったボールが、コートのラインの際に立っていた俺のとこへ目掛けてとんできたんだ。顔面に直撃しそうだったのを、相手チームのひとりが俺の前に手を出して、ボールを片手で受け止めた。それが那生、お前だったんだ」
一気に言い切ると、神宮が深い溜息を吐き、那生の顔をじっと見てくる。
「かっこよかったんだよ、お前。俺の前からボールを取って、そのままドリブルしてシュートを決めた。背は小さいのにすばしっこくて、でも大きく見えた。残りの時間は、ダチには悪いけど、那生の姿ばっかり追って見てた。多分その時からお前に惚れてたんだと思う。男を好きになったことなんてなかったけど、那生だけは何の違和感もなく、素直に好きだと思った」
神宮が言い終えると、今気付いたと言わんばかりに、那生の手を離し、悪いと、小さく呟いて俯いている。
「中三のときからって、本当……に? あ、でもお前は女子と付き合ったじゃないか。えっと、確か高三の俺がバスケ部を引退する前くらいに。ご丁寧にバスケ部が部活中の体育館で告られててさ。で、その後からその女子と付き合ってたじゃないか」
神宮から解放された腕を胸の前で組むと、今度は那生がそっぽを向いた。
「あー、あれはお前の気持ちを確認するためだ。それで、呼び出しの場所をわざと体育館に指定した」
「はあ? 気持ちを確認? どう言うことだよ。それに告白場所まで指定して、好きでもない子と付き合うなんて、相手の子が可哀想だろ」
「それは大丈夫。お試しって言っておいたから」
平然として言う神宮に、那生は開いた口が塞がらなかった。
「……それで、俺の気持ちって何だよ」
呆れた感情を思いっきり込めて聞いた。
「……時々お前から感じる視線が甘くて、俺は諦められなかった。晃平と特別な関係になってる雰囲気もなかったしな。だから俺は、お前の好きなメロンパン渡したり──」
「ちょ、ちょっと待て。お前、俺を餌付けしようとしてたのか!」
「そういうわけじゃない。たまたま一度あげたとき、那生がめちゃくちゃ喜んでたからよっぽど好きなのかって思ったからさ」
開いた口をさらに広げ、顎が外れそうになる。
それほど神宮の発言に返す言葉がはなかった。
「那生、メロンパン好きだろ? この間も病院で食ってたし」
能天気な神宮の質問に、「好きなやつからもらったもんは、何でも嬉しいに決まってる」と叫んでしまった。
おかしい。神宮はこんな人間だったのだろうか。
那生の知る神宮は口数が少なくて、でもいざというときの発言や振る舞いは、誰もが舌を撒く完璧な男だ。それなのに今聞いた話は、好きな相手の気を引いたり貢いだりと、小学生のように可愛らしい行動をだった。
那生は目の前で耳を赤く染めている姿が愛おしい。たまらない気持ちになり、もっと聞きたいとと尋ねてみた。
「ある。とても重要なことだ」
真顔で瞳を覗き込まれ、思わず生唾を飲み込んだ。
「……何で、那生は俺のことを苗字で呼ぶんだ。高校の時は名前で──環と呼んでくれていたのに。久しぶりに同窓会で再会したときは『神宮』になってた。時々、感情的になると昔のように環になってたけど、冷静なときや今も、お前は俺を神宮と呼ぶ。それが俺は悲しい……」
「じん……環……。それは──」
「那生。俺はお前に執着している。しまくっている。那生しかいらないし、触れたいのも那生だけだ。バスケの試合を観たあの日から、俺はずっとお前しか見てない。何年も想い続けてるなんて、こっちの方が気持ち悪い──」
「そんなことないっ! 俺だって、高一から今も……ずっと、環だけだ。環のことが忘れられなくて、同窓会でお前と会えば、押さえていた気持ちが浮上する。俺はゲイだから、ノンケのお前が他の誰かと一緒にいるのを見たくなかったし、噂レベルの話でさえも聞きたくなかったんだ」
燻っていた想いを吐き出すと、那生は恥ずかしさのあまり俯いてしまった。すると、神宮の手で顎を掴まれ、そのまま上向きにされると、ウェーヴのかかった前髪の隙間から熱っぽい双眸を向けられた。
「じん——たま、き。俺……」
「那生……」
名前を呼ばれた。ただそれだけなのに胸が痛くなり、鼓動や脈が急き立てるように那生を追い詰めてくる。
「な、何?」
「俺は悔しい……」
「ど、どうした急に」
「俺は何にも知らなかった。お前が辛かった時も近くにいたはずなのに気付かなかった」
「環……」
「那生って人間を知るほど好きになったし、何だかほっとけないやつだとも思った。奈良崎のことがあったにしても、どっか危なっかしくて。そんな那生を俺は見てたはずなのに……」
クールで無敵な神宮は鳴りをひそめ、那生の前にいるのは今にも泣きそうな顔をする大切な人だ。
「ごめん、親のことを話せば薬のことも紐付いてくるから話せなくて。こんな俺は重すぎて、親友でもウザいと思われるのがオチだと思ってた」
「思うわけないだろっ! こんなに那生のことが好きなのに、思うわけない。那生を慰めるのは、いつだって俺の役目でありたかったんだ」
「……環。ごめ……ん」
「謝って欲しいんじゃなくて俺は、俺はっ」
言い終えないうちに、那生の体は神宮の腕の中に引き寄せられていた。
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