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第7話

靴音が等間隔で廊下に響く。後ろを着いてきているのはセトだ。彼は研究員であり、リンの監視役も兼ねていた。 「仕事場」は毎回変わるし、「仕事相手」は政府の要職が多い。全てが極秘中の極秘で、リンは何をすべきかは教えられても、どこに行くべきかは言われなかった。 移動中の車さえ、セトが運転し、後部座席は全て目隠しされ、万が一にも逃げ出そうものなら彼に「処分」されるのだろう。 少し行くと、声が聞こえてきた。怒鳴るような、叫ぶような、聞いたこともない大きな声だった。 「返せ!返せよ!」 死んだ12番の弟である13番だった。セトと同じ白衣を着た、お目付け役の男の胸ぐらを掴み揺さぶっている。 「感情を乱さないように。貴方は彼の「弟」だった。貴方の感情は、12番と共に亡くなったはずです」 「何が「兄」だ!?何が「弟」だ!?ボクたちは兄弟なんかじゃない……親友、だったんだ……!」 そのまま13番は掴んでいた手を離し、床にくずおれた。行き場を失った手がだらりと投げ出されたままに。声が震えているのは激昂しているからか、すすり泣いているからか。 彼とは何度か話をしたことがある。廊下ですれ違った時に何度か。感情を「兄」に移しているといっても、彼はリンのように無表情ではなかった。 いつも飄々として、張り付いたような笑顔で、何にも興味がなさそうな青年。それがリンの中の13番だ。 そんな彼が今、狂乱と言ってもいいほどに泣き喚いている。 「いずれ、貴方にも新たな「兄」があてがわれます」 「いい……もう、いらない……」 「その「兄」に感情を移せば、全てどうでもよくなるでしょう」 「ならない……なるわけないだろ!?ボクも彼も、どうでもいい存在なんかじゃない!」 12番と13番の感情移行は順調なはずだったのに。 リンは泣き崩れる男の隣を、いつもの歩幅で通り過ぎて行った。
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