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第8話

「仕事」に駆り出される「弟」を羨む「兄」は多い。自分たちに残された、施設の外に出られる唯一の手段だから。 しかしほとんどの「弟」は知っている。外に出られるのはほんの一瞬だと。 「こちらです」 目的地にたどり着くと、セトが後部座席のドアを開けた。 むせ返るような緑の匂いと、蝉の鳴き声が一気に届く。今の季節は夏だと、リンにはかろうじて分かった。 『リン、聞こえるかな?』 「うん、大丈夫だよ、兄さん」 『「仕事」直前の直前だし、今回の内容を振り返ろうか。リンなら、忘れてないと思うけど』 自分から多くの感情を受け取っていながら、無線から聞こえる兄の声はいつも穏やかだった。 『相手は政府の要人。数日前に、別荘へ避暑に来た。しばらくしたら愛人も来る予定。それまでには終わらせたいね』 「分かってるよ、兄さん」 『相手は油断しきってる。都合の悪いことは今まで見つからなかったし、これからも見つからないだろうって思ってる。だから平気でドアに背中を向けてると思うよ』 「じゃあ、いつも通りでいいんだ」 『うん。だけど、気をつけてね。リンが怪我をしたら、僕は悲しいから』 「ありがとう……行ってくる」
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