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第9話
通信を切ると同時に、足音を殺して目の前の山荘に近づいた。扉を開ける。さすがに「標的」は玄関にはいなかった。だけど兄の言う通り、寝室に続く開け放たれた扉に背中を向けている。
慣れた手つきでナイフを取り出し、背中を一突き。刃を内蔵に食い込ませてから手首を捻った。
非力な自分は、これだけですぐに相手を絶命させられないことを既に知っている。
ナイフを抜くと血が溢れ、びちゃびちゃと床を濡らした。標的は呻きながら血を吐く。振り返りリンの姿を見る。そして、刺客が小柄な少年であったことに驚き、動きを止める。その一瞬が、文字通り命取りだった。
「やっぱり、感情なんていらないね」
驚かなければ、拳なり爪なりで、一撃くらいは反撃できただろう。なのに、動きを止めた。その隙に全体重をかけて体当たりをする。
「標的」が倒れたところで頸動脈を刺した。相手はびくびくと震え、やがて動かなくなる。
「終わったよ」
玄関の方にいたセトに声をかける。彼は血溜まりをできる限り避けるようにしながら、倒れた男が事切れているのを確かめた。
今回の「仕事」はこれで終わり。リンがさっさと車に戻ろうとすると、セトは顔をしかめる。
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