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第10話

「リンさん、血が……」 これはリンが怪我を負っているのではと心配する顔じゃない。感情に疎くなったリンでもそれは分かる。 むしろ責めているのだろう。どうしてもっと綺麗に片付けられなかったのかと。 「仕方ないよ。僕の体格だと、一撃じゃ仕留められない」 そう言ってナイフを一振りすると、また血が飛び散る。赤いそれは、床にも壁にも散っていた。リンの視線よりやや上にある棚にも。 数段に区切られたそれには、家族の写真立てと高価そうな骨董品、そして一番上は神棚になっていた。 祀られているのは、海と山の神。時に人間に恵みを与え、時に厄災を振りまき……今は、他国の侵略者から渦潮や山々としてこの国を守り続けている神が、人の形をとり天から降りてきた姿。 伝統を受け継ぐように、神棚はどの家にもあるし、何の験担ぎか施設にもある。 別段珍しいものでもないのにリンが気にとめたのは、神棚の下板、リンが血を飛ばさなかった箇所だけ、ほんの少し分厚かったからだ。 神像は固定されている。何を考えるでもなく、リンはその像を掴んで引っ張った。足ごと下棚の一部が外れる。中に何かが入っている。 それは書類を入れた綴で、書類にかかれている文字はリンには読めなかった。
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