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第13話

「兄さん、疲れてない?」 リンにも、いつもと様子が違うことくらいは分かった。自分を抱きしめる腕の力は強く、強ばっていて少し痛い。 「……ああ。大丈夫だよ。ただの頭痛だ」 それより、早く感情を移行させようと兄は言う。 「リンは悲しい思いも苦しい思いもしなくていい。そんな感情は全部、僕に頂戴」 相手に体液を飲ませれば、自分の感情は相手に移る。「兄弟」のほとんどはその方法に口づけを選んだ。 「ん……っ」 いきなり口腔を貪りあって唾液を飲ませることはしなかった。いつも、戯れのように兄は弟の唇を啄んだ。 「ふ、ぁ……」 何度もキスをしているうちに、リンの体から力が抜ける。ふわふわとした高揚感を覚え始めた頃、兄がさらに力を込めて自分を抱きしめてくる。あとはもう、互いに貪り合うように唇を重ね続けるだけだ。 「あ……ん、ん……」 気持ちいいという感情は、口内に溢れる唾液が兄へと移していく。そうすると兄の体も熱くなり、もっとと弟を求めるようになる。そうなるともう、自分の感覚を表す言葉が思いつかなくなる。だからリンは何度も兄の名前を呼んだ。 「兄さん……もっと……」 このまま全部忘れさせてくれたらいい。「仕事」のことも、兄弟でしてはいけないことをしているという背徳感も。 腕を兄の背中に回し、彼の体温をもっと近くで感じようとしたところでーーリンは急に突き放された。
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