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第14話
「……っ!」
酸素が急に肺に回って、ふたりは大きく咳き込んだ。体からすっと熱が引いていく。
「ぐ……っ、ぅ……」
しかし、兄はそれだけでは終わらなかった。えずいて、時には指を喉奥まで突っ込んで、唾液と胃液がまざった吐瀉物を床にびしゃびしゃと零していく。飲み込んだリンの唾液を、なんとか吐き出そうとしているようだった。
「嫌だ……嫌だ……もう……おかしい……無理なんだ……こんなことは……」
冷や汗を流し髪を振り乱しながら、兄は何かをぶつぶつと呟いていた。
「リョウさん!」
呆然としているリンよりも先に、セトが駆けつけて兄の体を支える。
「あ……あ、あ……」
吐くものがないほど吐ききった後、兄は寒がるように体を小刻みに震わせた。そして、顔を見ないままにリンを指さす。
「アイツ……彼……あの子を、どこかにやってくれ……顔の見えないところに……遠くに……っ!」
今朝、12番が死んだ。震えていたセトの声が脳裏に蘇る。錯乱した上での自死だった。
分かっていた。大量の、効果が分からない薬を使われてきたんだ。依存性や記憶障害になってもおかしくない。おまけに、感情を移すなんていう行為をしていたんだ。実の兄弟で、口づけまでして。
むしろ12番のことを思えば、兄の症状はまだ軽い。ただ実の弟を拒絶しただけだ。
「……分かったよ」
兄さん、とはもう呼ばない方がいいのかもしれない。理由もわからないままに、リンはそんな判断を下した。振り返ることも無く、兄の部屋を後にする。セトは兄の対応でついてこないが、帰り方くらい自分でも分かる。
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