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第16話

数日の間、リンに命じられたのは仕事未満の自室待機だった。正確には、検査だか何かで二日に一度は外に出られるのだが。 いつもの時刻に、いつものように封筒が扉から差し込まれる。期待して待っていたわけではないが、リンはすぐに封を開け、中身を確認する。他にすべきことがなかったから。 書類に書いてあるのはやはり、ここ毎日のように届くものと同じ「不適合」。 錯乱した実の兄に拒絶されてからというもの、リンには別の「兄」をあてがうという話がすぐに出た。 その適合者を探るための、ここ数日の検査だったのだが……血液型だか遺伝子だか知らないが、実の兄以上にリンと相性の合う「兄」はいないらしい。 また、一部例外の組み合わせを除き、「兄弟」は「兄」と「弟」ひとりずつというのが施設内での鉄則だった。 そうなれば、リンの「兄」探しは難航を極め、確率的にも新しい「兄」が見つかることは絶望的に思えた。 今回の検査結果も、予想は簡単にできた。それでも、またこの部屋を出るための「仕事」もなく、兄に拒絶された瞬間が頭の中をただひたすらに廻るだけ。そんな状況が、リンに苦々しい焦りと、怒りと、心もとなさを呼び起こす。 迷子になった子どもみたいだ。そんな自分がますます情けなく思えて、リンは書類を破った。ふたつに裂いただけでは何もおさまらなかったので細切れにし、それでもまだ憤っていたので、窓を開けて風に飛ばす。 また感情が生まれる。無駄な紙を増やしてしまった罪悪感。部屋の掃除および機密書類の勝手な破棄で始末書を書かされる億劫さ。 とうとう自分が何をしたいのか分からなくなり、しかしもう当たる物はなにもなく、仕方なしに壁を殴った。手は痛いし、余計惨めな気持ちになってくる。
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