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第19話
「この後、5番に会いに行きますので」
何も聞かされてなかったとは思うが、セトにとってはちょうど今言って聞かせたというところなのだろう。細やかな感情をもうリンは抱けないし、彼の言葉にわざわざ返事もしない。
「僕、「仕事」終わりだけど」
「構いません」
一応、いつも通り共用車を汚されたら困るということで、大まかな返り血は拭いた。しかし鉄臭い匂いまでは取れていない。でも、相手が5番ならそんなものかと考えた。施設内に長いこといれば、噂はそれなりに聞いている。
施設では5番と呼ばれている彼は、リンより年は上。リンの実の兄よりは少し下らしい。そして、ほぼリンと時を同じくして施設にやってきて番号を振られた。
だから、リンが2番で、彼が5番。
名前は確か、ロウといったか。
この国にかつていた害獣。牛や馬を食い荒らし、病をもたらした猛獣。荒れ果てた村を夜中徘徊し、屍肉を漁っていたという縁起の悪い伝説上の獣。
そんなおおよそ人に付けるべきでない名前をつけられたのは、彼の出自からだと聞いている。
リンは両親に送り出されるようにして施設に赴いたが、彼は施設に「捕獲」された。政府にも見捨てられた貧民地区にいた、やせ細った子どもだったそうだ。
「保護」ではなく「捕獲」だったのは、当時の彼がそうさせた。
曰く、貧民街へ視察に向かっていた研究員を殴った。恐怖で逃げようとする研究員に噛み付いた。彼は食らいついたその指を食いちぎり、しばらく咀嚼した後「まずい」と言って吐き捨てた。研究員を庇い、冷静に投降を呼びかけた警護隊には、威嚇のような唸り声を上げた後に罵倒。果てには一対十数人という状況の中で、警棒に殴られながらも暴行を止めなかったという。
後の事情聴取で、彼は「アイツらが気に入らなかったから」と理由を語った。
感情に支配された、人としての理性を持たない。人間未満の獣。貧民街で淘汰されなかったのが不思議なくらい直情的だったが、むしろその苛烈さ故に、劣悪な環境でも生き残れたのかもしれない。
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