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第20話
当初、感情を制御できない彼を、施設は「弟」にあてがおうと考えた。
しかし適合者もおらず、なんらかの話し合いを経て、結果、ロウは「兄」役を担うことになったようだ。
通常なら、液体でいっぱいになったコップに水を垂らせば溢れてしまう。感情とその器になる心だって同じだろうに、彼は施設職員の前では、今さら数滴で何が変わるのかと、感情値の変化を見せなかったという。
結果、彼は「兄」となったが、なかなか適合する弟はおらず、検査中の者と仮で兄弟を組むことが多いらしい。
しかし、一度組んだ者は二度と彼に会いたくないということで、ロウはずっと宙ぶらりんな立場にいるということだった。
そして今回、はぐれ者同士、リンと兄弟を組まされる運びになった。
「現在、5番も「仕事」中です」
聞けば、共感性の高い「兄」には任せられない「仕事」も、ロウにはこなせてしまうらしい。
むしろ施設の部屋に入れておくと「出せ」と暴れる。扱いに困った施設は彼にも「仕事」をさせることにした。
どこの現場でもトラブルを起こし、後始末は揉めに揉めるらしいが、腕力の強さや躊躇いの無さから、遂行の速さだけは一級。
部屋に閉じ込めたまま彼を暴れさせると面倒だという先の事情もあり、施設は仕事に駆り出さずにはいられないらしい。
これが、リンの聞かされている噂と推測を交えて編み出された、次の「兄」の情報だ。
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