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第21話

彼の「仕事」現場とやらに到着する。リンが車から降りようとしたのと、爆発音が響いたのはほぼ同時だった。山奥の隠れ家と思わしき民家の周囲を、爆煙が舞う。それと、怒号も。 「どうしてこんなことをしたんだッ!」 「爆薬なんて一体どこから!? 「「仕事」は終わりだ、終わり!もう止めろッ!」 怒鳴っているのは施設の研究員だった。名前は知らないが、見覚えはある。彼らの言葉から察するに、この爆発は人工的に起こされたもの。そして、引き起こしそうな人物といえば、リンにはひとりしか思い浮かばない。 こちらには研究員がセトしかついていないのに、彼には三人。よほどの問題児なのだろう。と思ったら、あと二人が件の人物を前から引っ張り、後ろから押し出すようにして煙から出てくる。合計5人だった。 「鬱ッ陶しい……んだよこれッ!」 両手首には手錠。そして腕から体全体にかけて返り血と打撲痕。返り血は「仕事」でついたものだとしても、手錠と打撲痕は「捕獲」のためにつけられたものだろう。 煙の中から、彼は――自分の次の「兄」になるらしい男は現れた。噂だけで想像していた、乱暴で屈強で、リンなど踏み潰してしまいそうな大男とは違う。意外にも細く、殴られ、怪我をしていても分かる程度には整った顔立ちをしていた。 中でも目立つのは、銀色の髪。彼は「捕獲」された時から、髪の色は白銀だったという。貧民街での過酷な環境と栄養失調が原因ではないかと、研究員たちは噂していた。 「いい加減にしろ!なんで爆発なんかさせたんだ!?」 「我々の「仕事」は、速やかに、証拠も残さずが鉄則だろう!?」 「だーかーらァ、吹っ飛ばしてやったんだろ?いーじゃねぇか。屍体も何にも残らねぇ!」 「そうじゃない!爆発させたら、明らかに人間の仕業だと分かるだろうがッ!」 自分たちの「仕事」は、「標的」は自然に、自分の意志で失踪したのだと思わせることにある。 「兄弟」が殺害を担当し、他の施設の者は解体するなり溶かすなりして、「標的」がいた痕跡を消す。 その後、他の担当者が「自ら消えたんだ」と思わせるような証拠を、小道具やメッセージで演出する。そこまでしてようやく、全体の仕事は幕引きになる……はずだった。 よりにもよってその初手で、彼が盛大な問題を引き起こさなければ。 「つッまんねぇなァ、てめぇら!人間も、建物も、全部壊さねぇと面白くねぇだろうが!」 彼は手を振って無理矢理手錠を外そうとしているようだった。もっとも、そのくらいで壊せるほど施設の備品は安物じゃない。外れないことを悟り、彼はさらに苛つき舌打ちをする。 ロウという名前の通り、感情をまるで隠せない獣のようだった。 リンが知っていたのは、保護当時の状況と、現在は問題児だということくらい。「兄」として、彼がどんな生活を送ってきたのかは分からない。 ただ、不敵な顔で笑いながら、研究員を煽るような物言いをし、苛つき怒る彼は、もう壊れてしまったんだと思った。 様々な感情を受け入れた先に、破壊衝動に支配されている。だから狂ったように暴れるし、人も殺す。 リンは兄のことを思い出した。自分から感情を受け取りすぎて、壊れてしまった兄。 彼も一歩間違えていたら、こうなっていたんだろうか。 ロウは、兄の行き着く先なんだろうか。
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