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第22話

「初対面がこんな形にはなってしまいましたが、リンさんが彼を止めてきてください」 手錠をかけられながらも、彼は目の前の研究員の頭に両の拳を振り下ろして気絶させていた。おまけとばかりに後ろの研究員にも蹴りを入れる。 彼らだけでは間もなく手に負えなくなるとセトは判断したのだろう。 「殺しさえしなければ手段は問いません」 そう言って、セトは腕に巻いた装置に目をやる。きっと、リンの対面時の感情でも測定するのだろう。 リンは一歩前に出た。足音に気づきロウがこちらに目を向ける。感情の針が嫌な方向に触れる感覚を、リンは久しぶりに味わい、思わず目を逸らした。 目の前の生き物と言葉を交わせるとはとうてい思えなかった。リンが何かを喋っても通じない。それどころか、目も合わせられない。きっと視線が絡まった瞬間、切られる。彼は手錠をしているのに。凶器は研究員に没収されているのに。 総じて、同じ場所に暮らしていても、絶対にかかわってはいけない人間のひとり。それがリンからロウへの第一印象だった。 「何だよ、お前」 逃げたいという感情が、理解不能から来る恐怖だとリンは気づけなかった。そんなもの、長い間抱いていなかったから。 「今度の「仕事」相手?それとも単なる殺す相手か?」 「僕は……」 名乗ったところで、彼はこちらの名前なんて絶対知らない。 「被検体番号、2番」 「じゃあ殺す相手っつーことで。すっげぇ弱そうだけど」 まずい。何がまずいって、彼の動きが読めないこと。体格的に自分の方が不利なこと。そして、混乱に陥った自分の感情を抑えきれていないこと。 なんとか避けようとするが、思考に気を取られているリンよりも、彼の蹴りの方が速かった。直撃を避けようと腕で蹴りを受け止める。骨の軋む音がする。続いて、吹っ飛んでしまいそうになるほどの衝撃。脚に力を入れたら、なんとか数歩後退するだけで済んだ。
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