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第23話
せめて相手の攻撃や行動の癖が読めたなら、リンにも先手が打てる。身軽なのは自分の方だ。先に攻撃にさえ転じれば、脚なり顔なり、動きが怯む場所を切りつければいい。
――人間はね、感情で動く生き物なんだよ。
どうして兄さんは、「仕事」の作戦を、そんなに簡単に思いつくの?
いつかリンは、そう質問したことがある。兄の作戦通りに動けば、要人の別荘に侵入することも、車で逃亡を図ろうとする実力者の前に回り込むことも、容易に成し遂げられたから。
――だから、共感して想像するんだ。この人はこんな風に育ってきて、今こんな環境にいる。だからきっとこんな感情を抱いているだろう、だとしたら、次にとる行動は……ってね。そうやって考えるための情報を、ボクは感情としてリンから貰ってる。人の倍、情報を持ってるんだ。辛い「仕事」は全部リンがやってくれてるんだし、ボクはボクにできることをやらないとね
人間である以上、そしてリンのような「弟」側ではない以上、目の前の男だって感情で動いているはずだ。
体勢を立て直しながらも、視界の中に彼を入れ続ける。そして表情や姿勢から、どんな感情を抱いているのか、からっぽに限りなく近い自分の心を余すところなく動かして考える。
笑っている。だったら嬉しいはずだ。なのに攻撃的にリンに向かってくる。ということは苛ついている?嬉しいなら、なんで?
当然のように、兄みたいにはいかなかった。分析した途端に疑問に覆い尽くされてしまう。
ロウのことを、もっと知らなきゃ対処できない。
でも彼はまたすぐに攻撃してくるだろう。
そう思っていたのに、ロウは間合いを詰めはしたものの、リンの前でぴたりと止まった。
初めて、まともに目を合わせたように思う。
ぽかんとしている。呆気に取られている?自分が変な行動でも取った?そんなはずはない。だったらなぜ彼は攻撃を止めた?
互いに見つめあっているうちに、研究員が再度ロウを捕らえる。しかし捕らえたところでまた彼は暴れるだけだろう。せめてリンが意識を奪うか、動けなくなるほど痛めつけでもしなければ。
ナイフはホルスターにしまった。彼の血を見たいとは思えなかったから。
「お前、なにす……」
彼の言葉は、途中で呻き声に変わる。
武器を使わず血を見ずに、彼の動きを奪う方法。
戸惑いと混乱に支配されていたリンの頭が唯一思いついたのが、股間を思いっきり蹴りあげることだった。
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