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第25話
「今日から動き出すそうです」
新たな実験として、被検体番号2番と5番を「兄弟」とする。
数日間、リンは熱を出して寝込んでいた。その間に全ては決まっていたらしい。
「ふたりとも、「仕事」では大きな成果を挙げていますし……まあ、あちらは同じくらいトラブルも起こしているようですが」
今日のセトはいつもとかなり比べて歯切れが悪い。兄と離れてから、リンは些細なことにも気づき、疑問を持つようになった。なってしまった。
「多くの者から感情を受渡されても壊れなかった「兄」と、受け渡しで一番感情数値を減らせた「弟」ですから。施設も期待しているようです」
そして、推測までするようになってしまった。
「他には、何かないの」
「……いえ、特には」
実家からの連絡は相変わらず無い。兄は自分を認識できないまま。しかし膠着状態だからといってすんなりと「じゃあ2番と5番で……」とはいかなかったのだろう。言い淀んだセトを見て、リンは確信した。
発熱時の自分は、感情が昂っていたはずだ。それを5番と接触したことによる弊害としたなら、ふたりを組ませることを危惧する声があってもおかしくない。
それでも話を進めたのは……この「兄弟」を、新たな、面白い実験と判断したからか。
「できますか?」
頭の中で推測を繰り広げているうちに、気づけばリンはセトに連れられロウの部屋の前に来ていた。廊下の突き当たり。「兄」たちの中では一番奥まった場所にある部屋。おそらく彼が暴れたり脱走を図ったりしても、なんとか抑え込めるように。
そして、この場合のセトの「できますか?」は質問ではなく、実質命令だった。
感情が昂ってからというもの、質問を質問通りになかなか受け取れない。少し前なら「できるよ」と律儀に答えていたはずなのに。
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