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第27話
「おーい、お前、リンだっけ。オレから動いた方がいい?純情そうな育ちしてるもんな」
楽しそうに笑う彼が顎に指を添え、リンを上に向かそうとするより先に、リンが彼の後頭部を掴んだ。引き寄せて思いっきり口づける。誘い入れるのはこっちじゃない。そう主張するために、思いっきり舌を捩じ込んだ。歯がぶつかる。どちらの唇が切れたのか、鉄の味がする。
「ん……っ」
押し付けるように唾液を移す。唇を離したところで、ちょうど彼の喉仏が上下するのが見えた。
唇に付着した血を指で乱暴に拭って彼は言う。
「やっぱ人間らしいよ、お前は」
唇を重ねた時、リンが思ったことは、「兄さんとは違う」だった。
最初は煽られた怒りのような感情と、自分ですら知らない感情に振り回される焦りとで、滅茶苦茶に口づけた。しかし冷静になって反芻するうちに、兄とはもう「兄弟」じゃなくなったのだという現実に気づく。
そこから襲ってきた感情が、「やはりロウは兄じゃない」だった。
唇の温度も感触も、口づけた時に離すまいと肩を掴む力の強さも、全て兄のそれとは違った。
こう考えることは別段失礼だとは思わない。恋人同士の口づけならかなりデリカシーのないことなんだろうけれど、自分たちが行っているのはただの実験だから。
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