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第28話
しかし、二度目に行おうとしたこれはどうなんだろう。
ただの実験で、そこには何の感情も無いはずなのに、彼を、拒絶した。自分から近づけておきながら、いざ唇同士が触れようとした瞬間に、リンは無意識に指をふたりの間に挟む。
「あ?」
「ち、ちが……」
「血ィ?ちゃんと拭いたっつーの。それに「仕事」終わりなんだからお互い様だろうが」
リンの「違う」という主語も目的語もない適当な言い訳を、彼は勘違いして受け取ったようだった。
だからか、リンからも力が抜ける。
「……僕はちゃんとシャワー浴びたし。アンタはどうせ拭いただけでしょ」
「時間がなかったんだよ。ほんとにお前は、ああ言えばこう言う……」
今日、感情の澱みを移すようセトから指示されたのは「仕事」終わりだった。彼もちょうど「仕事」直後だというのは、同じくセトから聞いた話で、たぶん言われなければリンは気づかなかった。
血生臭いと言われたことをどう思ったのか、彼は自分の腕の匂いをすんすんと嗅いでいる。気にさせてしまっただろうか。リンは彼の腕をそっと掴んでおろさせた。
「……僕が言いたかったのは、「違う」ってだけで……血の匂いとかは、あんま気になんない」
それこそ、ロウの言う通りお互い様だと思うから。
「じゃあ何が違うんだよ」
「それは、その……」
正直に口に出して、からかわれはしないだろうか。一瞬身構えたものの、今更だろう。もしからかわれたら、また噛みついてやる。
「兄さんと、違うから……」
しばらく考える仕草をした後、ロウは伝えられていたリンの情報に行き着いたのだろう。納得とでもいうように頷いた。
「すげぇな。よっぽど上手かったんだ、お前の兄ちゃん」
「違うし!」
からかいはされなかったが、デリカシーの無さすぎる答えが返ってきてしまった。
しかし、リンはリンで自分の中でも答えの出ていない理由を、どう説明すればいいのか分からない。
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