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第32話
「兄弟」の名を冠する関係性のはずなのに、施設内の「兄」と「弟」の多くには、普段から接触している形跡は見られなかった。
施設側もそれを良しとしているのだろう。むしろ、接触しようとしていることが知られれば、その理由を聞かれるのが常だった。彼らは「兄弟」に結託されて何かされると不都合なのかもしれない。
その何かの内容まで考える感情は、今のリンにはなかったけれど。
むしろリンの頭の中は、現在の「兄」とどう接すればいいのか分からない、という現状だけが占めていた。
感情をロウに移していなかったとしても同じだっただろう。むしろ、移している分、「分からない」の先にあるはずの「どうしよう」が取り払われ、幾許か楽になっているのかもしれない。
そんなリンとロウの「兄弟」に、施設は何を思ったか共同生活の許可を出した。
近頃のリンが示す感情値は想定より思わしくない。今までは順調に減っていた感情が、移行した直後なのに湧き上がったり、かと思えば知らない内に減っていたりする。そこにロウが関わっているのは間違いなかった。
それでいて、必要最低限の接触以外も許すというのは、研究員たちが実験と称して面白がっているのか、あえてより関わらせることで原因を突き止めようと真面目に考えているのか。
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