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第33話
「ご飯、持ってきた」
両手をトレーに塞がれてはいるが、施設内の部屋は個人の網膜か何かを検知して開くので何の問題もない。
施設上、来訪者情報は管理されていると思うのだけど、あらかじめ管理者側が問題ないと判断すれば、内からも外からも開く。
「兄」側はなぜか「弟」側よりも厳しく、ひとりで内側から扉を開けることはできない。問題ないと判断された来訪者が扉前にいて、「兄」は初めて扉を開けられる、らしい。断言できない、というのはリンも兄のリョウに聞いただけだからだ。
共同生活を許すという事例をもらってから数時間と経っていないはずなのに、既にリンの情報はロウの部屋に登録されているようだった。
被検体に提供される朝昼晩の食事と、施設の職員たちが使用している食堂の料理に違いは無い。
それでも被検体たちは担当の研究員から自らの部屋へ運んでもらうことを選びがちだった。
「兄」はその感受性から、職員たちの好奇の目に耐えることができずに。「弟」は、大多数の人間と長机に並んで食事をとる意味が分からないという理由で。
ロウは職員にどう思われようと気にしないタイプだというのがリンの見解だった。
だから彼が食堂で食べるなら、自分も行こう、そこにどんな理由と意味があるかは分からないけど、隣の席に座って食事を取ろう。そう思っていた。
しかし意外にも、彼は部屋で食事をしたがった。「うるせーから嫌なの」というのがロウの言い分だった。
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