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第34話

彼の部屋には本ばかりで(それこそ「仕事」に関係ありそうなものが多かったが、中には「どうしてこれを読んでるんだ」と思えるようなものもあった。その最たる例が恋愛小説だ)、机がない。だから食事は床に置くしかなかったし、そこからいちいち食器を持ち上げて食べなければならなかった。 今日の昼食は、肉に見せかけた大豆の固形食。野菜と鶏肉の和え物と、とろみのついた汁物。それと白米。 ロウは常に腹を空かせた犬のように、大口を開けて忙しなく口に食べ物を運ぶ。ガツガツという表現はこういう時のためにあるのだろう。 かと思えば、和え物の野菜を咀嚼した途端、思いっきり眉をひそめた。 「まっっっっず!!!!」 「ちょっと、ペってするの止めてよ……不味いならひと口をそんなに大口で食べなければいいのに……」 苦手な食べ物なら、せめて渋々とかゆっくり口に運ぼうとするだろう。好物を食べるような顔をしておいて、口に入れた途端「不味い」とは、意味がわからない。 「だって知らねーもん、オレ、自分の味覚とか」 彼によれば、食事が運ばれてきた時は、とても美味しそうな野菜だと思ったらしい。 「前に感情を移した「弟」の誰かが野菜好きだったんだろうな。でも食べて思い出したわ。野菜より肉の方が断然美味い。大豆肉は肉には劣るけど野菜よりかはマシ」 そして、無言でリンの皿に野菜を盛っていく。 「……ちょっと」 「チビはいっぱい食べてでっかく育たなきゃだろ」 言われるほどそんなにチビではない……と思う。 ロウよりは頭ひとつ分ほど背は低いが、まだ成長の余地がある年齢だと考えれば、平均的……もしくは平均より少し低いくらいだ。
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