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第35話

「お前は分かんの?自分の好き嫌い」 「……さぁ?」 好きも嫌いも感情のうち。だったら抜け落ちてしまっているのだろうけれど。 「好き嫌いはない……と思う」 必要な栄養だと言われれば、なんでも躊躇わずに口に含められるはずだ。 「じゃあいいじゃん。弱みのうちひとつは無効ってことで」 人にどう思われるかなんてどうでもよさそうに見えるロウも、「兄」の例外ではなかった。 好き嫌いを弱みと考え、それを多くの人の目に触れさせたくないからこそ、部屋で食事をとるのだろう。 野菜がよほど嫌だったのか、彼は汁物の中のふやけた野菜さえリンの方に寄越してきた 「これ、ほとんど野菜の味しないと思うんだけど。調味料で誤魔化されてるし」 「食ってみたら食感が嫌だった」 「何それ」 この調子だと茄子も嫌いなんじゃないだろうか。そう考えて、少し笑……おうとして、目を伏せ下を向く。 だって笑うということは、感情値が高まるということだ。「弟」なら無くさなければならないはずの「澱み」が溜まるということだ。 下を向いたリンの理由を、気づいているのかいないのか……「兄」は感情を移されることで察しがよくなると聞くから、きっと気づいて、見て見ぬふりをしているのだろう。 それどころか、「ちょうどいい位置にある」と言ってリンの頭に手を置いた。
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