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第37話
これが、暇、というものなのだろうか。暇というのは感情のうちに入るのだろうか。特にすることもないので、リンは普段は動かさない、錆び付いた思考回路を回転させてみた。大した結論は得られなかったので、途中でやめた。
食事の時間でもないのにロウの部屋に来ると、たいていこうなる。彼の部屋には本以外何も無いからだ。
ここで部屋の主以外に存在する色彩は、白と、色あせた本の表紙だけ。
最初は音声放送でも聞こうかと考えたが、ロウを盗み見たら集中して本を読んでいる様子だったので、雑音になるかもしれない、邪魔になってしまうかもしれないと考えてやめた。結果、リンはあまりにも手持ち無沙汰だった。
この部屋には窓もない。「兄」たちの部屋はたいていそういうものなのだろうか。リンはここを含め二部屋しか知らないので断言はできないが、どこの部屋も同じだろうというのは、施設の造りからして容易に推測できた。
「兄」たちは多くの感情を知るせいか、感受性が強すぎる。日々うっすらとした変化しか見せない外の景色すら、大きな刺激だと判断され、「仕事」の邪魔になるからと排除されるのかもしれない。
リンは普段、窓から外をぼーっと見て、自分の凪いだ心を自覚しているものだけけれど、「兄」にはそれすら許されない。彼らに娯楽はないのだろうか。
「何見てんだ?」
仕方ないので、視線の先をぴょこぴょこと揺れるロウの毛先に合わせていた。さすがに気づいたのか、本から顔を上げ問いかけてくる。
「娯楽は無いの?」
リンとしては、疑問をそのまま正直にぶつけただけだったのだが、ロウは「ずけずけとものを言うよな、お前」と笑った。
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