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第39話

そんなつもりはなかったのに、自分の動きは少し大仰だったらしい。本を閉じて顔を上げると、ロウがじっとこちらを見ていた。 「な、なに?」 もしかして、うるさくしてしまっていただろうか。リンとしては、身じろぎくらいはするといえ、音まで立ててしまった覚えはないのだれど。 「や、お前、熱はないんだよな?」 「うん」 「風邪を引いた覚えは?」 「ないよ」 見れば分かるだろうに。少し前に出していた熱はぶり返す予兆もなく、自分はいたって健康体だ。 しばらくロウは何かを考え、何事かに思い至ると、楽しそうにリンを見てにやついた。 「何が言いたいの。結論から言わないのは非効率的だよ」 「むっつり」 「な……っ!」 それから、リンの言った通りに指摘する。 「それ、6巻だろ。アレなシーンあるじゃん」 確かにあるのだろう。リンが閉じたのはその直前の、男女が絡み合い、性の匂いを濃くした瞬間だった。 「別に、休憩しようと思って閉じただけ!顔が赤いのは暑かっただけ!」 「はいはい、そういうことにしとこうなー」 あしらいつつも、面白がっている笑みは隠せていない。 そもそもこの施設は中央棟の管理室で室温を一括管理しているし、暑くなったり寒くなったりなんてことは、故障しない限りありえない。 そしてリンがここに来て10年近く、故障したという話を聞いたことがない。だからこそ、ロウはリンの言葉を単なる言い訳にとったのだろう。 過激なヤツはお前には早かったな、と、ロウは別の漫画を見繕い始める。それでも絵本をと言わなかったのは、リンが少女漫画を気に入っていると思ったのだろう。 リンは立ち上がって、彼の方へ行く。袖をぐいぐいと引っ張って、こちらを向かせた。 「ん」 そして両手を広げる。さっきまで読んでいた漫画で、主人公が意中の彼に抱きしめて欲しいと甘えてる場面みたいだ。気づいて少し恥ずかしくは思ったが、やろうとしていた行為を引っ込めようとは思わなかった。 「何だよ?」 「そんなに僕がむっつりだと思うなら、確かめてみればって話」
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