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第48話
「飯、持ってきたぞ」
ロウがリンの部屋に入ってくる。自分の部屋を教えたことはないのに。彼のことだから、職員に聞いたんだろう。下手に出る様は想像できないから、脅した可能性もある。
そしてそこまでしてやりたかったのが、リンと一緒に昼食をとること。弱みを晒したくないからと人前で食事をすることを避けていた彼が、自分となら――。
そこまで考えたところで、駄目だと意図的に思考回路を閉じる。何も考えない。感じない。彼にはできる限り近づかない。そう決めたのだから。
「……今は、ちょっと食欲無い」
驚いたように目を丸くする彼の隣を通り過ぎて部屋を出る。鼻をくすぐる汁物の匂いにも気づかない振りをする。
「それに、検査もあるし。」
嘘だ。けれど彼もさすがに「弟」のスケジュールまでは把握していなかったのか、そのままリンを追いかけてくることはなかった。
次の日。「仕事」も検査もなく、彼に感情を移す必要も無い。だから部屋でのんびりと窓から空を眺めていた。水色、橙、薄紫。夜の気配が濃くなり始めた頃、またリンの部屋の扉が開く。
「なぁ、今日はオレの部屋来んのか?」
「……共用車、掃除しないといけない」
「今からか!?」
「さっきの仕事で汚したから!」
これも嘘。でも廊下に出ることはできた。
そして、また次の日。
「おい、今日は「仕事」ないの知ってんだぞ」
「日記を書くって仕事がある」
やっぱり嘘。でも「弟」にだけ存在する検査にかかわる業務か何かかと思われて、見逃してもらえる。
さらに次の日。
「漫画の続き、貸してやろうか」
「いい。音声放送の気分だから」
こうして、リンは言い訳に言い訳を重ね、ロウから逃げに逃げた。いつまで?言い訳が思いつかなくなるまではいくらでも逃げるつもりだった。
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