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第51話

「アンタは、もう本能が麻痺しちゃったの?誰も必要としてないの?」 そんなはずない、と思うのは、きっとただの自分の願望だ。 「……そうなれたら、よかったんだけどな」 呟く彼の言葉は、リンの疑問をはぐらかしていた。 「ずるい……」 「あ?」 「いつも僕だけ、感情を知られてる」 「弟」だからしょうがないと言われれば、それまでだけど。 「なのに、アンタは教えてくれないの……ずるい」 自分でもめちゃくちゃな言い分だと思う。こんなおかしなことを口にするなんて、自分じゃない何かに体を乗っ取られたとか、何か変な物でも食べたかもしれないという想像に一瞬走りさえする。 でも、それと同時に紛れもない本音であることは、自分が一番よくわかっていた。 「……避けられたのは、また、オレの「弟」であるのを嫌がられてるからだと思った。今までのヤツらもそうだったし。だとしたら、せっかく「家族」になれた気がしたのに、離れるなんてあんまりだ」 「……何それ。意味わかんない」 「だろうな」 「たくさん物を知ってるから、ちゃんと名前つけて答えてくれると思ったのに。「あんまりだ」とか、曖昧すぎて分かんない」 初めて会った時のことを思い出した。感情的な目の前にいるこの男を、笑えない僕を見て笑った男を、とうてい理解できないと思った。するつもりもなかった。 今は、理解したいと思う。叶うなら、この感情の名前も全部、彼に教えて欲しかった。 「こんなこと言う奴なのに……なんで僕は、アンタに縋りつきたくなるんだろう」 こんなこととか、地味にひでぇなと、彼は笑う。 「感情全部を、無理に言葉にする必要ねぇだろ。兄弟ってそういうもんじゃねぇの。オレはいたことないから知らねーけど」 そうなのかな。ほんとにそれは「兄弟」なのかな。 浮かんだ疑問は、抱きしめられた体へふたり分の体温が混ざる間に、溶けてなくなっていった。
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