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第52話
ロウの様子はここ数日間随分と落ち着いていたのだと、施設の共用車の中でセトから聞かされた。
彼自身、逃げ回る「弟」を追いかけ回すことで忙しかったのだと思うが、初めて会った時の常軌を逸した行動と言動の数々を思い起こせば、狂人からただの素行不良程度には落ち着いていた。
「今は、手がつけられなくて困ってるという話でした」
そう続けるセトに、先ほど促すように車へと乗せられた。「仕事」へ向かうからじゃない。暴走した「兄」を止めるため、「弟」である自分が駆り出されただけだ。
「ようやく安定した「弟」が得られ、定期的に測定する感情値も上昇こそすれ、予測できる範囲でしたから。向こうの担当者も気を抜いていたのか、少し厄介なことになったという空気でしたね」
本当に?彼にとっての感情は本能で、笑って細められた、瞳の奥に見える寂しさや切なさ、憎しみといった仄暗い感情は、ずっと揺らめいて見えたのに。
ゆらめき続けているということが、逆に安定を指すのだろうか。彼の感情を安定させたくて、移された誰のものか分からず混乱するのではなく、はっきり目の前の少年のものだと分からせたくて、施設は自分を「弟」としてあてがった?
だから出資者とやらは、自分の感情値がいくら乱れても、「兄弟」を解消させなかった?
いや、今そんなことはきっとどうでもいい。リンはいつかのように彼を止めるために車で運ばれる。
そして、自分もまた、彼が苦しんでいるのなら止めたいと思っている。それが全てだ。
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