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第53話
現場は赤色に包まれていた。
かつてはこの国の首都とされ、一番に栄えていた都会には、政府も民衆も自然主義に回帰した今、かつてこの国が栄えた象徴として建設されたという石の棟だけが残っていた。
そして、その棟も今や、炎と煙に包まれ、リンの目に見える範囲では既に崩壊を始めている。
この爆炎も彼が起こしたのだろうか。しかし初めて会った時のような小さな爆発とは違う。あれはおそらく、施設のものをかき集めて作っただけの、彼のお遊びのひとつだった。今回の爆発は、きっとこっそり集めた材料だけでは起こせない。
やったのは、「仕事」の相手か、施設の職員たちか。
「「仕事」の「標的」は、過激な反政府組織だったそうです」
リンの疑問にはセトが答える。彼が自分を現場に、ロウのもとに案内するらしい。
一歩進むごとに、足元で誰のものか分からない血がぴしゃりと跳ねた。近くには崩れた瓦礫が転がっており、煙の中にうっすらと白い棒が見える。それが押しつぶされた人間の腕だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「馬鹿げた連中ですよ。政府は民衆に重要な事柄や物資を隠匿している。そう決めつけて、体制打倒を夢見て、国の象徴となっている建物の破壊を始めた」
正義はこちら側にあるとばかりにセトは語る。この国は平和で、諸外国からの干渉を受けることなく、多少の貧富の差だけで回っている。今回の爆発は、止める者が貧しい者を扇動する形で起こったという。
「……建物なんて壊して、意味あるのかな」
「良くも悪くも、彼らは象徴を崇めすぎているんでしょうね」
そして、それを破壊するほどの爆薬を起動させられ続けたら、さすがに被害は膨大になる。
だからこそ、施設は特命を受けて、計画を一度で止められるよう「兄弟」たちを「仕事」に派遣した。
「仕事」の相手が要人ではない状況もあるのだと、リンは初めて知った。しかし自分が知らなかっただけで、これまで「兄弟」の多くは民衆相手の「仕事」もこなしてきたのだろう。
崩れた、もはや建物とは言えない物の周りを半周ほどして、セトは立ち止まった。
彼の視線の先にロウはいる。しかし、かつてのように手錠をかけられているわけでもない。挑発的にこちらを見ようともしない。
衣服を赤く染めて、炎を背に、煙の中で佇んでいた。目に光が宿ってない。リンの姿を認めても、会話どころか笑うことすらしてくれなかった。ふっと目を逸らして俯く。口元がかすかに動く。ぶつぶつと何かを呟いているようだった。
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