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第68話
金を持った大人の何人かが、この地域にいる子どもの状況を哀れんで、都市部に引き取りきちんとした教育を受けさせようとする。さすがに全員は無理だから、将来有望そうな奴を何人か選ぶのだそうだ。
時間になると、狭く古びた教室の中で、子どもたちは全員一列に並んだ。いい身なりをした初老のスーツの男に名前を聞かれながら、年少の者から自己紹介を促され、練習した通りにはきはきと答えていく。
競りみたいで、心底くだらないと思う。競りについてはここで聞きかじっただけで、本物は知らないけど。
「決めたよ」
自分の前はさっと通り過ぎた来ただけで、彼は言った。自分は名乗っていない。男と目を合わせてもいない。つまり彼には認識されておらず、上等な教育を受けさせる価値のない商品だと思われた。気に食わないし腹立つが、事実なんだから構わない。
「彼と彼に都市部に来てもらおう」
「……え?」
指さしたのは、一番年少の者で、教室でもいつもみんなの弟分として可愛がられていた。小さい方が覚えがいいだろうし、この環境で身についた育ちの悪さも教育で上書きできるだろう。それは自分も、教師も予想していた。だからいい。
問題は、彼が2番目に指さしたのがアルだったことだ。
「で、では、あちらの部屋に少しお話を……」
母親は男を列から遠ざけると、自習するようにと子どもたちに言い残し、アルには子どもたちを見ているよう頼んだ。アルは突然のことに呆然と突っ立ちながらも頷く。自分はその横を通り抜けて彼女たちを追う。誰も自分には気づかない。たとえ壁の向こうで立ち聞きをしたとしても。
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