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第73話

喧嘩を吹っ掛けてきた男たちを殴り返す度に思う。この頃ここもきな臭くなってきたと。 暴力組織同士の小競り合いじゃなくなってきたし、ひりついた空気からか半端な不良少年が虚勢をはって怒鳴り散らす。 それだけならまだマシな方で、明らかに危ない薬を打っている奴が増えた。平等を訴え建物も人間も破壊して回る奴まで出てきた。 今日、自分に喧嘩を売ってきたのは、かつて教室にいて、自分をバイ菌扱いしていた少年ふたり。 今では暴力団組織でそこそこの地位に上り詰めたらしい。だから出自は弱みになると考えたんだろう。最近、出没するのだ。 教室の子どもたちが帰った後、アルの母にこの場所で学校なんか開くな、退け、さもないとどうなるか分からないと脅す輩が。それは彼らの仲間に違いない。だから今日も自分を見るや否やすぐに殴りかかってきたんだ。 「いい加減にしろよ、お前ら」 拳を握った指から嫌な音がした。たぶん折れたんだろう。それならアイツらの鼻っ柱も折れてるだろうし、地面には歯がぽろぽろと転がっていたから別にいい。やられた以上にやり返せた自覚がある。 「俺……らじゃ、ない……」 「嘘つくな」 脅しをかけてくる人間の姿は、明らかにこの地域でなんとか暮らしている人間には見えなかった。暴力を生業とし、それを利用して生きている奴らだった。 「俺ら……組織が……頼まれただけで……都合良かったから、それで……」 涙目になり喉を鳴らす様に苛ついて、もう一発殴った。ぼろぼろになった拳はもはや痛みを感じないが、彼らは違ったらしい。 もっと痛めつけたらいい。しばらく自分たちに関わろうなんて思わないように。そうすれば、教室の周りをうろつかれることも、喧嘩を売られることも……最近来るようになった子どもたちが怯えることもない。 しかし、振り上げた拳は下ろすしかなかった。大きな爆発音とともに、「火事だ」と叫ぶ声がする。 あの方角は……嫌な予感がした。転がしたふたりの男たちの腹を蹴り上げ、追ってこられないようにしてから走り出す。現場に近づくにつれ、予感は核心へと変わる。

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