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第74話
崩れていた。自分が少年時代を過ごしていた場所が。かろうじて建物の形を保っていた壁はもうない。瓦礫の山と炎の海だけがある。風が肉の焼ける嫌な匂いを運んでくる。
「離れろ!」
「ここは政府の者で対応する!」
怒号に耳を貸さず、瓦礫の元へ進んだ。腕が見える。子どもの小さな手。皺の増えた彼女の手。埋もれてそれ以外は見えなかった。千切れたのか下敷きになったのか。それでも助かったとしてもこの先にまちうけるのはろくでもない生活なんじゃないかと勝手に思う。
「君も退きなさい!」
施設の人たちが指示を出している。自分にも避難指示が出される。
「……それ、ここにいた奴らにも言ったのか」
「知らないよ!我々は通報があって来ただけだ!」
「……普段は銃声がしても動かないくせに」
子どもたちは、言われても動かなかったかもしれない。銃声や爆発音に怯えて。ここから逃げたとしても、帰る場所がないから。そんな時、アルの母はどうしたんだろう。分からない。もう口も利けない。
「何やってるんだ!?」
「知りませんよ、コイツが勝手に……!」
また政府の人間がやって来て、肩をつかみここから引き離そうとする。
「お前も妨害するのか!?あの組織の一員か!?」
「すみません。民間人の死体なんですけど」
「そんなことはどうでもいい!今はここと中央区のようにの隔離が優先だろう!?」
敬礼をして去っていく人間が、瓦礫を踏む。下に何があるかなんて気にもせずに。
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