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第75話

「……うるせぇな」 怒号が。炎の爆ぜる音が。自分の血管の切れる音が。自分の腕を脚を制御していた何かがぶちぶちと千切れていくような気がした。 「お前らだ!お前らのせいでコイツらは死んだッ!」 本当は誰がやったかなんて知らない。教室を尋ねていた輩が誰なのかも分からない。貧しい地域を富める中央区とやらから切り捨てたかった政府か。過去を知られたら都合が悪いと言ったあのふたりか。それとも暴力団組織の抗争か。知らない。どうでもいい。自分の中での結論は同じだった。 「見殺しにした奴ら、利用しようとした奴ら、全員だよ!ここにいる全員が、コイツらを殺したんだ!世界が殺した!世界に殺された!じゃあ自分たちは、この世界に必要なかったっていうのかよ!?答えろよ!」 「な、なんだコイツ……中毒者か……!?」 肩を掴んできた人間の顔を、裏手で思いっきり引っぱたいた。鼻でも砕いたのか血飛沫が舞う。指にねっとりとした感触がついた。 今までも人に暴力を振るったことはあったし、つい先ほども殴っていた。それも数え切れないほど。それでもどこか制御しようという自分の思惑は常にあって、脅しだとか威嚇だとか目的を達成すればすぐに拳は降り下ろせた。 でも今は目的なんてない。腹が立ったのか許せないのか。自分でも感情が分からず収めようもなかった。だから殴りたいだけ殴り続けた。 相手が血を吹いて倒れる。呻き声が聞こえる。 「……汚ぇ」 頭に足を乗せ踏み潰すように体重をかける。 そいつの方を見ずにまた目の前の、誰とも分からない瓦礫の下の腕を見つめる。彼女のものであるような気もしたし、知らない誰かのような気もした。 家族じゃなかったけどさ。最後までここを自分の家だとは思えなかったけどさ。……それでも、アンタとオレは対等だったよ。
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