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第76話

血の味がする唾液ごと飲み込んだ感情が一気に流れ込んでくる。その中から、リンはロウにかかわる箇所だけを抽出して自分の脳に刻み込む。 本人に無断でしていいことじゃないけれど。ひとつとしてこぼれ落ちて欲しくなかった。 一人を殴り倒したらまた誰かが止めに来る。質素な作業服ではあったけれど、物が違うからすぐにこの辺りの人間じゃないと分かる。そんな奴を片っ端から殴っていった。腕を掴まれて拘束されれば蹴る。もしくは捻って折れてでも暴れた。どこに向ければいいか分からない感情が落ち着くまで。 自分には何も無いと思って生きてきた。 何も手に入らない。だったら何もいらない。 神様を思い出す。昔アルの家に飾ってあったやつ。飢えようと叫ぼうとお構い無しに、自分から持てるものは全部奪っていく存在。そして他の持ってるやつに「お恵み」として与えるくせに、ここに住む奴らに「お許し」を与えようとしない存在。 「奪うなッ!何も持ってないオレから!もう二度と!」 それすら守られないなら、奪う側に立ってやろうと思った。世界を憎んで、恨んで、気に入らないものは全部壊してやろう。

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