80 / 149
第80話
自分の「仕事」によって、この国は少しずつ良くなっていっているらしい。職員の言うことがどこまで本当か分からないし、国という規模がロウにとっては大きすぎて、いつも話半分に聞いていた。
そんな風に過ごして、もう何年経っただろうか。
「特に今日の「仕事」は、自分たちがずっと手こずっていた相手だから」
政府が貧民窟から子供を拐かし実験に使っているとか、政府は他国からの侵略を既に受けていて今は傀儡と化している、そして他国のために自分たちは搾取されるばかりだとか、そんな噂を流布し、共感する仲間を集め、ひとつの集団が出来上がった。
彼らは政府に情報を開示するよう働きかけていたが、政府はそれに応じない。そのため、主義主張は次第に過激になっていき、今は力で政府をねじ伏せ、政府に成り代わることを目的としている。
政府が建造した建物を爆薬で破壊して回っており、一般人に犠牲は出していないものの、被害額はなかなかで手を焼いている。表立って殲滅することは難しいから、破壊対策のどさくさで、「弟」たちが首謀者を少しずつ始末している。そんな概要を、車の中で聞かされた。
自分が現場についた時、辺りはやけに静かだった。周囲に人間は住んでいない。しかし万が一を考えて、施設の職員が政府の者かは知らないが、事情を把握していない人間が立ち入ることのないよう、それらしき人々が塔の周りに配置されていた。
「こら、勝手に進むな!」
「うるせぇ。好きにやらせろ」
破壊予告は書状で出されていて、建物を壊すための爆薬はもうどこかに設置されてるはずで。だったら、「仕事」相手となる組織の一員は、自分に害が及ばない範囲の、けれども建物が見える場所にいる。
手の空いている「弟」なんて他にいただろうに、それでも自分がこの作戦に駆り出された意味。それは、人間の感情を考えられることが求められているということだ。
だとしたら、今回の「標的」は配置された人間に紛れ込んでいる。そしてこちら側の様子を逐一見張っていないと気が済まないはずだ。
ロウはいちいち周りの人間の顔なんて覚えていない。それでも見分けることができたのは、主義主張のある人間ほど、それを隠しきれていないから。
姿勢に、目線に、佇まいに、何かをしてやろうという感情が滲み出る。それは彼の短い人生の中で、何度も自分をたじろがせてきた強い気配でもあった。
警備に当たっている人間の中から該当の人物を見つけ出す。「標的」の顔は知らない。依頼してきた人間が明かしたがらなかったから、職員共も同じだろう。
ともだちにシェアしよう!

