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第83話
主に流れ込んできたのは、爆発を仕掛けた件の金髪の男の感情と記憶。そして嫌な予感の通り、彼は名家に引き取られたはずのアルだった。
彼は金持ちの男の家で教育を受けながら成長して、その過程で、かつて自分がいた環境に、オレのような少年に同情を膨らませていった。
教育機関で秘密裏に活動していた暴力組織に友人を介して加入し、活動を始める。憤りと正義感を武器にして。
駆け巡る記憶や感情とともに、施設の職員が言っていた今日の「標的」についても思い出す。もしかしたら、名家の息子かもしれないと。その家と自分たちの施設は繋がりがあり、対爆発犯とは別途に依頼を受けたのだと。
引き取った養子が反社会的な活動をして困っている。このままでは家名に傷がつく。だから見つけ次第処分して欲しい。頭の良い子だと思っていたが、やはり生まれは生まれ。教育してもまともにはなれなかったと。
「……馬鹿だな、アルは」
オレみたいな奴は、救われる必要なんてないんだよ。生まれついての劣等感は埋められず、憐憫を素直に受け止められず、何も生み出さず失うことしかできやしない。
だから、分不相応な願いを抱いたまま死んでいけばいい。
「……だったら、なんで生きてんだろうな、オレは」
ひとりでに呟いているうちに、小さなひとりごとはやがて心の中で大合唱を始め、思考を支配する。その上、他人から移された様々な感情で、心が呟く言葉はころころ変わる。
やがていちばん大きな声に流されるようにして、主張はひとつにまとまった。一番大きな声はアルの声色をしていた。
「可哀想な奴……生きてちゃ駄目だ」
呟いた途端、腕を何者かに引っ張られた。ここにいるのは、彼――アルしかいない。ごつごつとした感触が手のひらに触れる。彼の腰から下は瓦礫に埋もれ潰されていた。
最後に遺す言葉が、恨み言であればまだよかったのに。
「……託させて、くれ」
そう言って、彼はこちらの手を痛いくらいに強く握りしめた。
「君、は、この……世界、を……」
変えるのか。変えないのか。言葉は続かなかった。先ほどの力が嘘のように手がずり落ちていく。
自分になんて、託せる世界など何も無いはずなのに。彼は何を言いたかったんだろう。
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