92 / 149
第92話
大きな組織ほど、予算という金が重要になるし、それひとつで瓦解するのだと、当然のように彼は語った。
「出資者は、遺伝子認証で施設のどこでも入れるようになってる」
だからこそ、職員のあの態度だったのだ。実験体として無下に扱いきれず、かといって客人ほど無体が許されてるわけじゃない。その対応は「特別」ともいえた。
「この施設の認証方法が、父子を見分けられないほどイカレてんのか、父親がろくでもない息子にせめてもの情けをかけたのかは知らねぇけどな」
リンが記憶を覗いた通り。父親とは数度だけ会ったことがあるとロウは言った。
本を与えようとしたのは、息子に最低限の情操教育を施そうとしたからか。
戦闘要員ではない「兄」につけたかったのは、少しでも息子に長く生きていてほしいからか。
数値が低くともリンとの「兄弟」を解消させようとしなかったのは、初めてできた息子の「弟」を取り上げたくなかったからか。
「詳しいことは分からねぇ。ただ、本を毎日読んでるって言った時にアイツは呟いたよ。「本当に、何も知らない場所で生きてきたんだな」ってさ」
ともだちにシェアしよう!

