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第94話
「ちょっと、何するの」
リンが頬をふくらませて怒る。これも無意識だろう。もし指摘したら、「そんな子供っぽいことしてない」と言って、無理に表情を抑えてしまうような気がした。
無理に薬を飲んで自分を助けて、挙句の果てに高熱で倒れたあの時もきっとそうだったんだろう。
衝動だけで、芽生えた感情の赴くままに選択し、行動した。芽生えたばかりのひたむきな想いを向けられることなんて、今までの自分にはなかったと思う。だからこそ、心地良さと面映ゆさを同時に覚えた。
「……そうだな。オレも家族になるなら、お前とがいい」
何気なさを装って呟くと、リンの表情も綻ぶ。
「あー、でも、そしたやお前の兄とも家族になるのか」
「兄さんの方が年上だよ」
彼が自分以外の人間を兄と呼ぶのを聞くと、ロウの感情がざわざわする。それでも「兄さん」と呼ぶ時の優しい声が好きだった。相変わらず「兄」の中の感情は、忙しなくあちこち動くのだ。
「いいじゃん。兄も弟も同時にできて」
「やだよ。あんな繊細そうな奴、気が合うとは思えねぇ」
このまま小気味よく言葉を交わし続けるのかと思ったが、拍子が少しずらされる
「兄さんと、会ったことあるの?」
その言葉に答えなかった。どんどん拍がずれていく。黙ったままでいるのも決まりが悪くて、再度彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「ちょっと!」
「ちょうどいい位置にあるんだよなー、この頭。……お前にとって、兄さんはアイツひとりでいいよ」
「じゃあ、僕たちの関係は何になるの?」
その答えは、ロウであっても上手く言葉にしないし、できない。
「これから考えて決めようぜ、ふたりで」
施設に定められた「兄弟」以上の、ふたりだけの関係を。
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