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第103話
ロウの中では「弟」からの告白が頭の中で何度も繰り返されていた。
嫌だったわけじゃない。むしろ嬉しかった。生まれて初めて、誰かに必要とされたという事実が。
生きていく上の必要最低条件というわけではなく、感情という1点において必要とされたことが、まるでオレじゃないと駄目だと言われているようで。家族がいたら、生まれた時からこんな風に必要とされたんだろうかと、夢みたいで。
リンから好かれている自覚がなかったわけじゃない。むしろ、彼の想いは感情を受け取ってきた自分が一番よく知っている。それでも、その想いは失ったばかりの兄の代わりを求める感情が自分へと移動してきたものであると思っていたし、そうであってほしかった。
じゃないと、彼の告白に応えたくなってしまうから。今にも駆け寄って、抱きしめて、あの柔らかい髪を思いっきり撫で回したくなってしまうだろう。
自分はきっと、彼の隣では生きていけないのに。
ロウのもとに連絡が入ったのは、そんなことばかりを考え、自室で本を読んでいても一文字も頭の中に入ってこないときだった。
職員が慌ててやってきて、今すぐ「弟」の、リンの澱みを排除してほしいと言ってきた。
「仕事中」に厄介な問題が生じたんだろうか。しかし、それも想定内ではあった。そうなるように仕向けた罪悪感はあれど憂いは無い。まともな感情が芽生え出したのなら、人を消すための「仕事」などやってられない。ましてや、後ろで糸を引く「兄」ではなく、その手で刃を「標的」の胸に突き立てる「弟」なのだから。
ロウは職員に有無を言わされず車に乗せられた。
走り出してからかなり時間が経っているような気がする。数えたわけでもないし、黒く塞がれた窓から流れる景色なんて見えるはずもないから、ただの感覚に過ぎないが。現場はずいぶんと遠いんだろうか。それとも、単に自分が流れる時を遅く感じているだけか。
リンに感情が芽生え、「仕事」を嫌がるようになったなら、自分はそろそろ引き際なのかもしれない。
腕も脚も組んで目を閉じながら考える。
彼と出会う前の自分なら、ようやく時が来たと喜んでいたかもしれないのに。言うに事欠いて「引き際」なんて、実行を惜しんでいるみたいだ。
それだけ、リンと過ごす時間が楽しかったのだと思おう。だからこそ、自分の中で、大切な思い出として胸に抱いていける。
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