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第105話

車の中で、リンは始終無言だった。慟哭とすら呼べるくらいの激しい嗚咽は止まったけれど、時おり涙を流しながらしゃくり上げる。まだ話すつもりはないらしい。それは言葉にしきれないからか、運転席にいる職員に聞かれたくないからかは分からなかった。 何も口にしないからと言って、慰めない言い訳にはならない。背中を撫でながら、ロウは何度も「大丈夫だ」という言葉を繰り返す。リン自信がこの言葉を信じられなかったとしても、そう言い切りたかった。 リンは時おり縋るようにもたれかかってきた。離れないという意味を込めて肩を抱くと大きく震え、はっとしたように離れていく。甘い雰囲気にはなりようがなかった。怯えとはまた別の、絶望にも似た拒絶がそこにあった。それでも、ロウは「大丈夫」だと背中を撫で続ける。いつものように頭を撫でることはできなかった。 「……部屋にいたくない」 リンがようやく、曇り空から雨粒がひとつこぼれ落ちるように言葉にできた一言がそれだった。あの部屋は静かすぎるから。ラジオを流しても何の慰めにもならない。だったら、苦しくても「兄」といたい、と。 だからロウは彼を自分の部屋に連れてきた。積まれた本に囲まれた真ん中で、リンは顔を隠すように膝を立てて座っている。 「僕は、ずっと、殺してきた……」 「ああ、そうだな」 震えながら聞いたリンの懺悔は、全てロウの想定通りのものだった。その言葉を今さら否定したって意味はない。感情がなかったという弁明はあっても、人を手にかけたという事実を彼は覚えている。だからロウの相槌は、リン突き放すためではなく、先を促すためのものだった。

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