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第108話
「……好きにするからな」
服を脱ぎながら、唸るような彼の問いかけが一度だけ。揺らぐなら今だという酌量にも、もう戻れないという念押にも聞こえた。
自分も服を脱ごうとする前に押し倒された。寝台もない部屋の、床の硬さと冷たさに肌が粟立つ。
身動きできないままでいると、ボタンごと引きちぎられ、下はずり下げられ、あまり日に焼けることの無い肌がさらされる。
互いに、頑なに唇には触れない。彼も以前のように噛み付いてはこなかった。
代わりに首筋を舐められると、これから獣に食べられるような、ぞくぞくとした感覚が伝う。それが恐れだけではないことは嫌でも分かってしまう。だって。ひどくしてと言ったのに、肌を辿る唇どこまでもは優しかった。
手首を上でまとめあげられる。優しい触れ方しかできない分、逃げられないようにするのが、彼なりのひどくすることなのかもしれなかった。掴まれた手首は。痕がつきそうなほどに圧迫されている。逃げられないというほの暗い焦燥と期待。自分はなんて浅ましいんだろう。しかし、彼の熱に覆われているうちに、考えるられるのは彼のことだけになっていく。
今、こんなこと本当にしていいの?
なぞられる心地良さで、そんな考えはゆっくりと霧散していく。だめなのにと理性が押しとどめようとしたときに胸の飾りに触れられた。
「あ……、や、だめっ……ひどくするって、言ったのに……」
こんなのは気持ちいいだけ。罰が現実逃避になってしまう。
「オレは頷いてない。好きにするって言っただけだ」
「あぁ……っ」
胸の先は、指と舌で弾いたりこねたりする度に色が濃くなり硬くなる。自分でも聞いた事のない吐息混じりの声が響く。
「や、ぁ……」
気づいたら両手が自由になっていた。彼は拘束するよりも。好きなように愛撫する方を優先した。
乳首が、へその上が、脇腹が、吸われた箇所がじんじんと熱をもって疼いている。。そこを軽く、血が出ない程度の力で噛まれると、敏感になった肌から全身に電流が広がっていく感覚に体が跳ねた。
こんなの、知らない。怖い。息を整える時間もない。
「だめ……おねがい、止まって……あ、んん……っ」
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