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第113話
本棚の多く並ぶあの部屋へ、リンはずんと重くなった腰を手で摩りながら騙し騙し歩く。その部屋の扉は空いていた。ということは中に彼がいるということだ。会ったら何を言えばいいのか分からないまま、ただ会いたいという気持ちに任せて中に入った。
ロウは長椅子に腰かけて寝ていた。その寝顔はどこか疲れているようにも見えた。足も投げ出して行儀が悪い。起きて欲しい。喋りたい。でも珍しい寝顔を見られただけで心は満たされている。感情が矛盾している。
しかめっ面でときどき唸り声みたいなのをあげる彼は、魘されているというよりも困っているようだった。どんな夢を見ているんだろう。また自分が何か言って困らせているのかな、なんて考えるのはただの思い込みかもしれない。でもそうであればいいと思った。
人差し指で唇をふにふにと押してみる。本当は口づけがしてみたかったけど、したら起こしてしまう気がした。リンの中にあるたくさんの感情にも、ふたりの関係にも整理がついてない。そのまま温もりだけを求めるのは、昨日と同じ。なし崩し的に快楽を求めることになってしまう。
だから唇に触れ、頬を撫で、自分の中の感情に名前をつけてみる。照れくさい。恥ずかしい。面映ゆい。気恥ずかしい。起きたら彼に教えて欲しい。もしまたわからないとはぐらかされてしまうなら、今度は一緒に考えて欲しいと言うつもりだった。
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