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第118話
それ以降は、リンからも彼女に近づくことはなくなった。
しかし家に人が多く集まる日に限って、彼女は兄弟ふたりを傍に呼ぶ。そしてふたりを息子だと紹介した。
若いのに苦労してるとか大変でしょうと周囲の婦人が言う。そんなことないですわ。学ばせていただいていますの。ふたりともとてもいい子で。そう言って、肩を掴んでリンをぐいと引き寄せた。
怖くなって兄に手を伸ばすと、リンに代わって「こちらこそお母さんにはよくしていただいています」と子供らしくたどたどしい口調で、しかししっかり受け答えをする。
兄が彼女を「お母さん」と呼んだことに気づいていたが、リンには上手く反応できなかった。後ろ手に回した腕を彼女につねられていたから、痛くて声も出せなかった。
それからだった。リンはすれ違いざまに足をひっかけられたり、髪を引っ張られたりするようになった。でも、自分が悪いんだと思う。
だって使用人の誰も止めなかった。夜会の帰りにあの女が酔って泣くところにも遭遇した。
「あの子をどうしても可愛いと思えないの……!」
すると彼女の連れてきた侍女が背中をさする。
「……仕方のないことです」
その一言二言だけで、リンの中では全てが繋がってしまった。
自分は兄と違って社交的じゃない。彼女を母と呼ぶこともできないし、顔を合わせてもおどおどしてばかりで笑いかけることもできない。そんな自分だから、彼女は痛くするし、父は家にも帰ってこない。
そうすると腕にや足についた痣が自分が悪い子であることの証である気がして、誰にも言わないでおこうと思った。
嘘をつくのが下手だから、唇を噛んで口を噤むことにした。
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