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第127話
星空を追うようにして外に出た。外と言ってもただ建物の外というだけで、施設のそとには決して出られない。周囲は石の塀でぐるりと囲まれ、その上には鉄線が作られている。
銃器も爆薬も、今となっては鎖国前の異物で、それこそ違法な暴力組織か、海辺や要人を警護する人員しか持っていないと聞いている。もし持っていたとしても扱うのに知識はいるから、施設からの脱出は難しいだろう。普通なら。
「お前は記憶で見て知ってんだろ」
小型の爆弾を今、彼は持っている。それでも石壁に穴くらいはあくだろう。それは幼馴染だった男から死の間際、その手に託された。手に取った時の動揺も、リンは「呑み込んだ」から知っている。
「アイツからもらったものをここで使う。所属してた組織の誰でも使えるように簡易な作りになってるからな。職員の見回りの時間と道順も知ってる。簡単な話だろ。お前がどこかで隠れてオレが爆発させる。それで逃げられる」
単純明快で、分からない説明も言葉もない。それでもどこか引っかかるのは、彼が人数に言及しなかったことだ。「ふたりで逃げよう」と一言も言ってくれなかった。
それに、彼に爆弾を託したアルという男は、自らの仕掛けた爆薬で死んだ。組織とやらに殉職させられた。そんな彼から託された爆弾が、同じ性能でないとどうして言える?リンだけがどこかに隠れて、彼が爆発させる。石に穴を開けられたとして、彼の体はどうなるだろう。
「……アンタは、逃げないつもりなの」
「バレたか」
あっさりと白状する。そしてこんな時、彼は本音を言わずに誤魔化そうとする。告白した時からそうであると知っていた。全然効率的じゃない男。自分に感情がなければ、彼の茶番には決して付き合わなかった。
「そこまで分かってれば上等だ。お前だけが兄を連れて逃げろ。起爆はオレが」
「嘘つき!」
食ってかかるこはこういうことなのだろう。間髪入れずに、反論も許さない口調で弾劾する。
「アンタは自分で爆薬を作れるはずだ。だって、初めて会った時に見たんだから」
材料の調達先もいつの間に作ったのかもわからない。でも爆発したということは、爆薬があったということだ。彼と「仕事」の後、初めて会った時に、その光景を見ている。人間を消すことが目的のこの施設が作戦に爆薬を使うとは考えづらかった。職員に拘束されていたことからも、あの爆発は彼が起こしたに違いなかった。
「あれは実験だったんだろ?実験できるってことは複数個作れるってことだ。アンタは他にもいくつか爆薬を持ってる」
「持ってたとしても、だ。あるだろ、遠隔での操作は難しいとか」
「アンタにはあの時、爆風に巻き込まれた様子も、爆弾を投げる仕草もなかった。だから遠隔で爆発させられはずだ」
記憶を辿るに、最初の爆薬は一種類だった。小型だが遠隔で石壁は壊せる程度の。
その頃からアンタはここから逃げようとしてた。でも僕とは知り合ってない。だからひとりで、自分が逃げようとしてたはずだ。
だとしたら、計画を狂わせた要因はひとつに決まっている。
「……僕がいるから?」
そしてそこに思い当たったとして、喜べばいいのか悲しめばいいのかわからなかった。
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