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第131話
しばらくすると、隣の牢屋が空いた音がした。疲れていたのもあって、うとうと微睡んでいたのだけれど、やっぱり鉄格子の軋む音はうるさい。ついでに「さっさと離せ!」と叫ぶロウの声も。
「……なんでロウまで捕まってんの」
「うるせー。一応いいとこまで行ったんだよ」
もともと逃げられる逃走劇じゃなかった。ひとりで切り札もどきの爆薬を使う彼じゃないから。ということは、ひととおり職員との鬼ごっこを楽しんだ後だろう。相変わらずイカれたフリをして翻弄していたんだろう。その真意は、脱走場所を知られないためだったとしても。
かなり長い間、ふたりを沈黙が包んでいた。妙に感情的になって、喧嘩別れのような形になってしまったし、しかも一方的にまくしたてた自分のせいで地下の牢屋に入れられる羽目になっている。
馬鹿馬鹿しすぎて笑い飛ばすことすらできない。そう思っていたのに、隣にいる彼は気づけば面白そうな顔をしていた。
「兄弟喧嘩って、こんな感じなんだろうな」
「何笑ってんの。全然楽しくないし」
「そうか?けっこうおもしれーと思ったんだけどな。言いたいこと言い合って。仲直りのきっかけも分からないからむっつり黙り込んで」
それ、僕のことじゃん。
「……兄弟喧嘩は、僕も初めてだよ」
喧嘩にならないほど歳が離れすぎてるわけじゃなかった。ただ、自分は兄に守られてばかりで、喧嘩にすらならなかった。
別に喧嘩をしたかったわけじゃない。一方的に与えられるのではなく、与え合う、対等な兄弟になりたかった。だから、自分も兄を守ろうと「仕事」を遂行する側に立候補した。それからリンのような被験体は「弟」と呼ばれるようになった。「仕事」には邪魔になるのに、願掛けとして髪を伸ばし始めた。
今さら、こんなことを思い出したってもうどうにもならない。ロウは兄が壊れたふりをしているといって、セトは兄がもう壊れているといった。どちらが正しいかは確かめてみないと分からない。
しかしどちらにしても、兄にそんなふうに振る舞うきっかけを与えたのは自分なのだろう。
ろくな人生じゃないな、と思う。まだ十数年生きてるだけだけど。しかも自分は彼じゃないから、この言葉を笑いながら口にできる気がしない。ずっと心の中で抱えて生きていかなきゃいけない。感情を移さないのなら、なおさら。
今の状況だって、自分の人生と大差ない。面白いとは思えない。そんな時、彼は笑うが、自分は正反対だった。消化できない想いが、ふつふつと煮えたぎるような気持ちが、彼と再会できた幸運と相まってどうしようもない感情に変わっていく。
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