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第139話

「行こう、ロウ」 「あ、ああ……」 ロウはリンに手を引かれ廊下を進む。後ろは振り返らない。父はもう、すがりついてはこなかった。 「……お母さんのこと、好きだったんだね。きっと」 どんな言葉をかければいいか分からないリンの、最初の感想がそれだった。 「アイツがそんな玉かよ。聞いた感じ、あのまま監禁しそうな話だったじゃねぇか」 ロウには、父と母のしたものが、恋愛だとはどうしても思えなかった。純粋な恋だの愛だのが、あの場所にあったかどうかすら分からないけれど。 「手に入らなかったから執着して、幻を追いかけてるだけだろ」 「もう、またそんなひねくれた考え方して」 「リンには言われたくねーよ」 「……事情が、あったんだと思う」 好きな人の近くにいたいのにいられない。ふたりとも、その状況は嫌というほど知っていた。それに伴う、苦々しいもどかしさも。 「それに、彼は本当に君の母親を愛したんだって……」 そして、君が生まれたんだって。 「そう考えた方が、僕は安心できる。勝手だけど」 だから、少なくとも僕はこれからもそう思って生きるつもり。リンは自分の言葉をそう結んだ。 「そうかよ」 その後ら、ロウは口の中をもごもごさせながら言い淀む。 「……悪かった」 お前がどう思うかは自由で、感情も自由で、それを否定する権利は自分にない。もごもごと、ロウは歯切れ悪く付け加える。 「……」 「……」 「……なんか言わねぇの?」 「ロウも謝るんだって、ちょっと思った」 「どこまでひねくれた奴だと思われてたわけ、オレは」

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