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第140話
廊下に人はいなかった。眠りについている時間は見回りの人数も限られているから、そしてそれをロウは把握しているから、遭遇しないように歩ける。それでも出資者のようなこともあるから、声を潜めて話した。
「もうバレちゃってると思うし、2回目だけど改めて言うね。好きだよ」
「……オレも」
そのたった三文字に、リンは目を丸くする
「……何驚いてんだよ。分かっただろ、そんなに捻くれてねぇの、オレは」
逆に自分の方がひねくれてるかも、なんてリンは考える。あんなに渋っていたくせに。3人で抜け出す覚悟を決めたからだろうか。
「あの兄と合流できたらオレもやろ。さっきお前がやってたヤツ」
「真似しないでよ。僕が先なの。好きなのも親族への挨拶も」
「待て。好きになったのはオレの方が先だし。一目惚れだし」
「でも僕の姿は見てなかったんでしょ。声だけじゃん」
言葉を軽く投げ合ううちに歩く速さも上がったのか、そのまま作戦通りの分かれ道に来る。下手をすれば……脱走が上手くいかなければ、自分たちは処分される。そうしたらここで交わすのが最後の言葉になるだろう。
こんな時なんて言うのかな。言葉なんていらないかな。ふたりとも同じ気持ちで、ただ「いってこい」「いってきます」のやり取りをした。お互い、気をつけての願いを込めて。
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