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第147話

「なぁ、このやけにムラムラすんのも離脱症状であってんのか?」 「し、知らないっ」 好きだと告白はした。想いに応えてもらえたとも思う。しかし彼とそういうことをしたのは一度きりで、それも衝動的なものだった。 この島には、外の世界には男だけじゃなく女もいて、自分たちを「兄弟」で通していくのなら、しなくても不思議じゃない。ただ自分が我慢すればいいだけ。そしてそれが実際にできるとたかをくくっていた。 「オレさー、ずっと我慢してたんだよ 」 島民から借りた服はゆったりとした作りで、簡単に裾から悪戯好きな手の侵入を許してしまう。 「お前、怪我してたし」 「あ……っ」 もう大丈夫かと、怪我の具合を確かめるように撫でているだけかもしれない。けれど指でなぞった箇所は敏感になり、次の愛撫を待ち望んでいる。 自分から言えばいいんだろうか。もう治ったよと。でもロウも具合が悪そうだし。でも欲求不満ではあるみたいだし。どうすればいいのか分からなくて、固まっているだけもいたたまれなくて、枕の近くを探って置いてあった紙切れを掴む。 紙には「甘える券」と大きく乱雑な、彼らしい字で書かれている。食べるものも何でもいいし、わがままも言わない。そんなリンが散らかった部屋の掃除をしていた時、彼がおもむろに寄越してきた紙だった。 この島では、字が書けるようになった子どもが「お願いを聞く券」や「お手伝いする券」などと冗談半分に親に渡すのが慣習になっているらしい。 「ねぇ……これ、今使う……?」 むしろ彼が使ってくれれば、自分は彼の甘えを受け止めるだけでよかったのに。彼はやはり自分を甘やかす方が好きらしかった。 「可愛いよな、お前」 「ど、どこがっ」 別に真剣に考えて欲しいわけじゃなかった。売り言葉に買い言葉で、答えを聞くのも恥ずかしい問いかけをしてしまった。なのに彼は、こんな時に限って真面目な顔で本音を言う。 「甘え下手なところが、特に」 「……ん……っ」 覆いかぶさってきて、唇が合わさった。柔らかな箇所から熱が伝わるように、自分の中の固い部分がふやかされていく。 ぼんやりとした記憶だけど、施設に来る前は甘えもしない、淡々とした可愛げのない子だと言われていた。でも、今はそれでいいんだ。下手は下手なりに、彼に甘えてもいいんだ。 唇が離れても、自分から彼の背中に腕を回して抱きしめる。もっとくっつきたかった。それで、先ほどの仕返しとばかりに自分も耳元で囁いた。 「なら、甘やかして。思いっきり」 「任せろ」 甘い声で、けれど無邪気に彼が笑う。今度は啄むように音を立てて口づける。気づけば、どこから持ってきたのか、空になった小瓶が転がっている。そしてその中身の行方といえば、自分の肌の上だった。 「や……っ、つめたい……」 とろみのある、無色透明の液体だった。 「好きな女といい雰囲気になったら使えって、親父どもに渡されたんだよな」 それはつまり、効果は分からないけど、性交用の何かなのだろう。 「……なんでそんな道具がまかり通ってんの」 「そういう文化なんだろ、たぶん」 そして、女にと渡されても使うのは使うのは自分なんだ。ただひとりで確かめて安心する。彼に言っても当たり前だろと一蹴される気がしたから。 「あっ……ん、くすぐったい……っ」 「使いそびれるよりはいいだろ」 彼が言うには、どこに使うかは分からないので、とりあえず体中に広げたいらしい。じゃれあうような戯れの中で、鎖骨も。薄く上下する胸も、口づけしながら触り合う。さすがに脚の間のさらに奥へと伸ばされそうになった時ははずかしさから身を捩ったけど、分からないを口実に体の隅々まで開かされた。本当は全部分かってるんじゃないかと疑ってしまう。

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