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番外編 SS詰め合わせ
克己くんにお願い!
恒例の元同級生が集まって遊ぶ日。
カラオケで盛り上がる中、聖斗は密かに克己の横に移動した。
「克己、頼みがある」
「何だよ、改まって」
「……俺に料理を教えてくれ!」
言われた瞬間、克己はぽかんとしてしまった。
あの聖斗が料理を教えてくれだと?
差し入れを貰うことはあっても、自分では包丁を握ることすらなかった聖斗が?
「どういう風の吹き回しだ?」
「……料理を食わせてぇ奴がいる」
不承不承と理由を明かした聖斗に、克己はにんまりと笑った。
「へえぇぇ、お前って好きな子には尽くすタイプだったのか」
「うるせぇよ」
「それが人に物を頼む態度か?」
「……すいませんでした」
「まあ、そういうことならいいぜ」
「マジか!?」
好きな相手に美味しいものを食べさせたいという気持ちはよくわかる。
それで喜んでくれて、笑ってくれたら最高だ。
「ならスパルタでいくぞ」
「おう、どんと来いだ」
こうして克己のお料理レッスンが始まったのだった。
枯れた花にも愛はある
瑠生にサシェ用の布袋を探すと約束した椿は百均ショップに来ていた。
あれから調べてみると、サシェを手作りする人は少なく、そのための布袋は売っていないとわかった。
そこで百均にある、中身の見えるオーガンジー製のラッピングアイテムに目をつけたのだ。
サイズも縦横十五センチ程と小さく、巾着型で口をリボンで結ぶだけなのも丁度いいので迷わず購入を決めた。
「瑠生、はいこれ」
「あ、サシェ用のやつか?」
「そう。私からのプレゼントね」
「それは悪いよ」
「気にしないで。百均のやつだから」
「そうか……ありがとう」
有り難く受け取った瑠生は早速、枯れてしまったカーネーションの花を袋に入れてみた。
だが、カーネーション自体が匂いの弱い花なので香りがしない。
「あとでハーブを足したらいいわ」
「そうだな」
たとえ香りがなくても、この花を見るだけで元気になれる。
枯れてしまっても、そこに込められた愛情は不変だ。
瑠生はサシェを枕元に飾ることにした。
美波はみんなのお姉さん
二人が一緒に暮らすと決めた日。
聖斗は渡しそびれていたポララのぬいぐるみを瑠生にプレゼントした。
「これ、クレーンゲーム限定の…!」
「ああ、お前にやるよ」
「いいのか!?」
「そのために取ったようなもんだからな」
「でも、何で? もう一ヶ月以上前には全部なくなったって……」
「美波が教えてくれてな」
どこか決まり悪そうな聖斗を見て、瑠生はピンと来た。
きっと、あの日だ。
二人で出かけていた、あの日。
やっぱりデートだったんだな、と思ったら、思わぬ事実を知らされた。
「これ持ってって、お前とちゃんと話し合えって言われたんだ」
「え……」
「そん時、言われた通りにすればよかったんだけど……ごめんな」
申し訳なさそうな聖斗に、瑠生は少し切なげに微笑んだ。
「その話はもうしないって約束だろ」
「……そうだな」
「ありがとな、嬉しいよ」
瑠生の手のひらよりも小さなぬいぐるみ。
けれど、そこには美波の大きな思いやりが詰まっていた。
体重増量大作戦
その日の昼休み、聖斗は真剣な表情でスマホの画面を見つめていた。
検索ボックスに入力した言葉は『健康的 体重 増やす』である。
会っていなかった二ヶ月の間にすっかり痩せてしまった瑠生の体重を、できるだけ健康的に増やすにはどうしたらいいか。
それが聖斗の目下の課題なのだ。
「アボカド、ナッツ、魚は鯖がいいと。さつまいも、ひよこ豆、チーズ…。パンならピーナッツバターか…」
もともと瑠生は食が細い。たくさん食べることができないから、一食のカロリーを増やすことが必要だ。
「……よし」
今晩のメニューは鯖をメインに、さつまいもで大学いもを、アボカドはサラダで、ひよこ豆はスープにしようと決めた。
定時で退勤し、瑠生のアパートへ向かう。
近くのスーパーで買い物をして、再び交換した合鍵で中へ入ると瑠生はまだ帰って来ていなかった。
買ってきた食材で、すぐに使わないものは冷蔵庫にしまう。ずっと空っぽだったそこは、今は様々な材料が収まっていた。
あれから聖斗は特に用事のない限り、毎日、夕食を作りに来ている。
瑠生は申し訳ないと言ったが、聖斗は自分がしたくてしていることだからと譲らなかった。
「さてと、じゃあやるか」
瑠生の笑顔を見るために。
初めてのおてつだい
「俺も手伝う」
キッチンに立つ聖斗に、瑠生はそう申し出た。
聖斗のために自分もできることをすると決めたのだ。聖斗にばかり料理をさせる訳にはいかない。
今すぐは無理だが、いずれ上達して、自分一人で作ったものを食べさせたいと瑠生は思っている。
「足は大丈夫か?」
「立ってるだけなら大丈夫だ」
「そうか。……なら頼む」
瑠生の決意を感じ取った聖斗は頷いた。
「じゃあ、サラダ作るから、レタスを洗ってくれ」
「わかった」
渡されたレタスを言われた枚数だけちぎり取って、流水で洗う。
「一口大にちぎってボウルに入れて」
「……これくらいか?」
「そうそう」
これなら余裕だな、と思っていたら、次に出てきたのは胡瓜だった。
瑠生の前にまな板と果物ナイフが置かれる。
「最初からデカい包丁だと怖いだろ」
「……確かに」
「じゃあ、まずは胡瓜を縦に半分に切ってみるか」
「縦半分…?」
こんな細長いものを更に半分にするのか。
瑠生は恐る恐るナイフを握り、胡瓜を押さえて刃先を入れた。
聖斗がハラハラしながら見守る。
綺麗な一直線とはいかなかったが、どうにか半分には切れた。
「できたな、すごいすごい」
頭を撫でられた瑠生は「ガキ扱いすんな」と言ってしまったが、満更でもない気分だ。
「そしたら、次は斜め薄切りだな」
「斜め薄切り?」
「こんな感じだ」
聖斗は三切れほど手本として切ってみせた。
「手は猫の手な」
「猫の手?」
「昔、調理実習でやったろ」
「……覚えてない」
聖斗は瑠生の後ろに回って、その左手を取った。手を胡瓜にのせ、指を第一関節から丸く曲げさせる。
「このまま押さえとけよ」
それから右手にナイフを持たせ、その手を上から握った。
「包丁は指に当てたままの方が手を切りにくいんだ。最初はちょっと怖いかもしんねぇけど」
そう言って、聖斗は瑠生の手を動かしていく。
ゆっくりと押して引いて。綺麗な断面を見せて胡瓜が一切れ、はらりとまな板に落ちた。
「焦んなくていいからな。手、切らないように気をつけろよ」
「ん、わかった」
瑠生は聖斗がしたようにやってみた。
だが厚さが一定しない。切り終わると胡瓜の厚みはバラバラだった。自分がこんなに不器用だったとは、と瑠生はがっかりだ。
「おお、上出来じゃねぇか」
「どこがだよ」
「十何年ぶりだろ。慣れてないんだから仕方ねぇよ。続けていけば上手くなるから」
そう言われても、それはいつになるだろうと先が思いやられてしまう。
「大丈夫だって。俺も最初は下手くそだったろ?」
「……そうだったか?」
瑠生は昔の記憶を引っ張り出した。
聖斗が初めの頃、よく作ってくれたのは焼きそばだった。そういえば、入っていた肉がよく繋がったままだった気がする。
思い出したら何だか笑えた。
確かに料理の天才でもない限り、最初から上手くできるはずもないか。聖斗の言う通り、続けていくしかないのだろう。
その後、聖斗が人参の千切りとツナをボウルに加え、マヨネーズとケチャップ、粒マスタード、塩と胡椒を振り入れる。
「じゃあ、これ混ぜて、器に盛ってくれ」
「ん」
スプーンでざっくりと混ぜ合わせ、ガラス製のサラダボウルに盛りつける。
これはなかなかの出来栄えだ。
夕食が出来上がると、瑠生は早速サラダを食べてみた。オーロラソースのような味わいに粒マスタードがピリッと効いていて美味しい。
特に美味しく感じるのは自分も手伝ったからか。
「うん、美味いな」
聖斗も喜んで食べてくれている。
その笑顔を見たら、もっと上手くなりたいと思った。
聖斗もそんな思いだったのだろう。
これからも頑張るぞ、と瑠生は気持ちを新たにした。
あなたがわたしのお薬です
瑠生は退院した翌週の月曜日、仕事終わりに以前に行ったメンタルクリニックへ足を運んだ。
睡眠薬は、入院中は入院先で出してもらっていたが、クリニックで貰った分がなくなってしまったからだ。
にこにこと迎えてくれた医師の豊原に、瑠生は事故に遭って入院していた経緯を伝えた。
豊原は少し悲しげだったが、瑠生が不眠症になった原因は解決したことを言うと、ほっとしたように微笑んでくれた。
だが、不眠症状が軽くなったとは言い難い。
聖斗に抱かれて眠った夜は熟睡できたが、帰ってしまった日はあまり眠れなかった。
瑠生は導入剤の他にもう一種類、眠りをよくするための薬を併用することになった。
病院を出て、薬を貰い、クリニック専用の駐車場へ向かう。
そこに停まっている赤のミニバンの運転席に聖斗が乗っていた。
聖斗は運転席から下りて瑠生を出迎えた。
「お疲れ」
瑠生が助手席に乗るのを手伝って、聖斗は車を発進させた。
自動車メーカーに勤めるくらいだから聖斗は車は好きだが、都内で暮らす分にはあまり乗る機会がない。
ここぞとばかりに迎えに行くと言って、今日は車で通勤してきたのだ。
「どうだった?」
「薬を一種類、増やすことになった」
「そうか。それでもう少し寝れるようになればいいな」
「ああ」
本当にそう願う。
家に帰り、聖斗が夕食を作るのを瑠生もほんの少し手伝って二人で食べたあと、聖斗は自宅へ帰っていった。
その後、寝る前のルーティンをこなし、二種類の薬を飲んで瑠生はベッドに入った。
目が覚めたのは午前三時。
それでも昨日までよりはマシだった。
こんなものかと思って瑠生はその週を過ごした。自分がいない間に実験は進んでいて、瑠生は遅れを取り戻すことに集中しなければならなかったから。
金曜日、瑠生が家に帰ると、間もなく聖斗もやって来た。
ここから土、日は一緒に過ごす約束だ。
毎日、夕食を作りに来てくれて、そのうえ休日まで自分のために費やさせるのは気が引けたが、聖斗がそうしたいと譲らないのだ。
どうやら聖斗は自分の体重を増やそうとしているらしい、と気づいたのは一昨日だ。
その前日と同じ食材を使った、違うメニューが出てきたからだった。
いつも何も言わずに、そうやって気遣ってくれるのだ。どうやったら聖斗のような人間が育つのだろうかと、聖斗の両親にも感謝するばかりだ。
夕食を取って風呂に入り、少し休んだあと、二人は寝室へ向かった。
恋人同士にしかできない運動をして、薬を飲み、聖斗の腕の中で眠る。
翌朝、目が覚めたのは午前五時だった。
よく眠れた、という実感がある。
隣にいる聖斗はまだ眠っていた。
あどけない寝顔に自然と笑みが零れる。
結局、一番効果があるのはこの恋人の体温なんだなと瑠生は思った。
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