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第7話 ※Rシーンあり
ひと晩明けても、竜岡にキスされたショックから立ち直ることができなかった。あいつはどこまで本気なのだろう?
土曜日なので、俺はどこにも行かず、ベッドの上にうずくまっていた。竜岡のことばかり考えてしまう。
あいつは俺にとって、倒すべき敵だった。
仕事でタッグを組むことになり、竜岡の色々な一面を知るようになった。竜岡は飄々としていて、発想が自由で、何よりも優しい奴だ。自分が疲れていた時だって、俺の体調を心配してくれた。
そんな男が急にキスをしてきた。計算や駆け引きとは無縁の、衝動的な行動だった。
本気……なのかな。
いつも余裕たっぷりの竜岡が強引な振る舞いをするだなんて、それ以外に考えられない。
でも、相手は俺だぞ? 竜岡は男同士の恋愛に抵抗がないのか? 俺は正直、考えたこともなかった。
ベッドから身を起こした俺は、配信で映画を観ることにした。著名なミステリー評論家が絶賛していたサスペンスものだ。映画に没頭すれば、竜岡との一件を忘れられるだろう。
映画は30分ほどしたところで雲行きが怪しくなっていった。
女性探偵が、警察官を誘惑した。そして、濃厚なラブシーンが始まった。俺はもつれ合う男女の裸体を眺めながら、竜岡とはこういうセクシャルな行為は無理だと考えた。
だって、俺たちは男同士だ。どっちがどっちを抱くというのだ?
サスペンス映画を見終わった俺は、タコライスを作った。手を動かしているうちは頭を休めることができる。
出来上がったタコライスを食べていると、スマホが振動した。
電話をかけてきたのはまさか、竜岡だろうか?
恐るおそる画面をのぞく。
営業第一課時代の先輩、三沢さんからの電話だった。
「虎ノ瀬。元気でやってるか?」
「はい。おかげさまで」
「急で申し訳ないんだけどさ、明日、会社の女性陣とバーベキューをすることになったんだ。来てもらえるか?」
俺はフリーの男だ。
女性が絡む話題に飛びつくのが自然だろう。
「大丈夫です。何か持っていくものはありますか?」
「手ぶらでオッケーだぜ。よかったー。虎ノ瀬、こういう合コンじみたイベント、苦手だと思ってた」
「いえ、大歓迎ですよ。出会いが欲しいですし」
「おお、いいねえ。積極的で。明日もその調子で盛り上げてくれよ!」
通話を切ったあと、俺は安堵した。
竜岡には悪いが、俺は男同士の道を選ぶつもりはない。竜岡の気持ちに応えるつもりはないと態度で示していれば、そのうち、あいつだって一時の気の迷いだったと思い知るようになるだろう。
俺たちはちょっと間違えてしまっただけだ。
◆◆◆
翌朝。
広々としたバーベキュー会場で、俺は一番会いたくない男と対面した。
「竜岡さん……」
「おはよう。もしかしてまだ眠い?」
竜岡の方はおなじみの飄々とした雰囲気を取り戻していた。先日、俺にキスをしてきた男と同一人物とは思えない。
「せっかくの機会だから、お肉いっぱい食べよう!」
もっと他に俺に対して言うべきことがあるんじゃないのか。そう質問を投げかけたくなったが、俺は口をつぐんだ。
竜岡は、あの日の行動を反省しているに違いない。向こうがなかったことにしたいと思っているのだから、俺としても話を合わせた方がいい。
だって、キスしたからって恋人にならなきゃいけない決まりはないんだからな。
「竜岡さーん! 読書好きって聞いたけど、どんな本を読むんですか?」
総務部の美女、佐原さんのお目当ては竜岡らしい。顔もスタイルもいいふたり。お似合いだ。
「まあ、色々と」
「私もー! 最近、北欧ミステリーにハマってて」
「そうなんだ。なんていう題名の本?」
話が弾んでいる。
俺は焼き上がったトウモロコシをかじった。あれでいいんだ。竜岡は佐原さんと結ばれて、家庭を築く。男女の恋について、誰も文句を言わない。
もしも竜岡が俺を選んだとしたら? 周囲からの無理解に竜岡は苦しむことになる。
「ねえ、竜岡さん。今度、神保町を案内してくれませんか?」
「うーん、ごめんね。今ちょっと仕事が立て込んでるから」
俺は会話に加わった。
「竜岡さん。休みはしっかり休むタイプなんだろ? 時間が取れないってことはないんじゃないのか」
「虎ノ瀬さん……」
「佐原さん。竜岡さんの連絡先はもう知ってるの?」
「まだです。あの、教えてもらってもいいですか?」
俺はスマホを出し渋る竜岡を睨みつけた。竜岡は不服そうな顔で佐原さんと連絡先を交換した。
「佐原さん。こいつには、いつでもメッセージを送っていいから」
「虎ノ瀬さん! さっきから何なんだ。勝手に話を進めるんじゃねぇよ!」
竜岡が語気を荒げたので、場が静まり返った。
みんなの視線には戸惑いが滲んでいた。ふだんは飄々としている竜岡が感情を乱すのは珍しい。俺もびっくりした。
三沢さんが沈黙を破って、竜岡に声をかけた。
「竜岡ー。肉食え、肉。腹減ってると怒りっぽくなるぞ」
「……すみません、大きな声を出して。いただきます」
竜岡が串に刺さった肉にかぶりつく。
「美味しい! 美味しいです、三沢さん」
「そうだろう。秘伝のタレだからな」
その後、和やかな雰囲気のもと、バーベキューが執り行われた。俺もまた女性陣に連絡先を訊かれた。特に断る理由もないので、俺は連絡先を教えた。
女性の輪に囲まれていると、竜岡が拗ねたような視線を送ってきた。
俺は目で訴えかけてくる竜岡を無視した。
◆◆◆
片付けが終わり、解散となった。
バーベキュー会場の最寄駅に向かおうとすると、竜岡が近づいてきた。
「……一緒に帰ろう」
アパートの方角は同じである。それに、頑なに竜岡を拒んだら、あの日のキスを意識していることになる。俺は「いいよ」と応えた。
竜岡は無言だった。
話好きな男なのに、沈黙を貫いている。
ふたりのあいだに重苦しい雰囲気が横たわったまま、あざみ野駅に着いた。
アパートに向かって歩く。
俺は竜岡に言った。
「うちに寄っていけよ。少し、話そう」
「……うん」
竜岡を1Kのアパートに招き入れる。
俺が声をかけようとした瞬間、竜岡が目を潤ませた。
「僕……めちゃくちゃだよね。いきなりキスしたのに、そのことを忘れろって言ったりして」
「竜岡さん。あの日はきっと、疲れてたんだよ」
「……僕、虎ノ瀬さんが好きや。今日だって、女の人と話してる姿を見て、居ても立ってもいられなくなった」
竜岡が俺の背中に腕を回す。
抱きしめられて、俺は真っ白になった。竜岡のぬくもりに包まれていると、互いの境界線など消えてしまうような心地になった。
いくら理性が否定しても、本能レベルで俺は竜岡を憎からず思っている。
竜岡の唇が近づいてくる。俺は逃げなかった。
遠慮がちだったキスはやがて、口内をねっとりと舐め上げる濃厚なものへと変わった。竜岡が夢中で俺の舌を吸ってくる。余裕たっぷりの男はどこにもいなかった。竜岡は本気で俺を求めている。
「あっ、……」
竜岡の下腹部が兆していた。太ももに当たる硬い感触に、俺は慄 いた。男の部分が反応しているだなんて。相手は俺なのに? 竜岡は本当に俺のことを求めているのか。
俺は体を離そうとした。
しかし、竜岡が俺を抱く力はものすごく強くて、自由の身にはなれなかった。
竜岡は俺のシャツのボタンを外した。そして、今まで誰にも触られたことがない小さな粒をくにくにとつまんだ。
「や、それ……、やめ……っ」
胸元をまさぐられているうちに体の中心が熱を帯びていった。血流が一箇所に集まる。
俺もまた勃起してしまった。
「虎ノ瀬さん、ごめん。僕、我慢なんてできない。虎ノ瀬さんが欲しい」
「竜岡さん……っ」
ふたりの体がベッドにもつれこむ。
竜岡は素早い手つきで俺のチノパンのファスナーを下ろした。そして、みずからもベルトを外し、前を解放した。
俺の下着はカウパーを吸ってぐしゅりと濡れていた。竜岡は下着越しに俺のペニスにかぶりついた。男くさい匂いや味を感じ取られていると思うと、俺はいたたまれなくなった。
「おまえ……、そんなに俺が好きなのかよ」
「うん。言葉だけじゃ足りない。虎ノ瀬さんを気持ちよくさせたい」
竜岡が俺の下着を引き下ろした。ぶるんと揺れながら俺のペニスがあらわになる。竜岡は俺の肉棒のくびれにちゅぱりとキスをした。そのまま、ちろちろと舌を遣われる。恥ずかしい。それなのに感じてしまう。真っ赤になった俺の顔を、竜岡がペニスをしゃぶりながら見上げている。
「虎ノ瀬さんのちんこ、立派やね」
「あっ、あぁっ」
「でも、僕がもう女の子の相手なんてできない体に変えてあげる」
「やぁっ! そこ、ぐりぐりするなぁっ」
尿道口をしつこく舐められて、俺は目を潤ませた。
「虎ノ瀬さん、感じやすいなぁ。ほんと、可愛い」
「そっちだってギンギンじゃねぇか」
「……こんなになっちゃった責任とってくれる?」
竜岡がみずからの雄々しくそそり立ったモノを、俺のペニスに|擦《こす》りつけた。大きな手がふたりの肉棒をまとめて扱く。
「あ、あぁ……」
あまりの気持ちよさに俺は濡れた声を上げてしまった。
「竜岡さんっ……、それ、やめてくれ……っ」
「嘘。虎ノ瀬さん、もっとちょうだいって顔してるよ」
「んっ! ン、ぅっ」
俺の唇を貪りながら、竜岡が兜合わせを続ける。俺のペニスは与えられる快楽に反応してピクピクと脈を打った。
腰の奥がぐらりと茹だっている。このままだと竜岡の手のひらに発射してしまう。俺はもつれた舌で「やらぁっ」と叫んだ。しかし竜岡は手を離してくれなかった。
「あ、ぁあっ!」
爆発的な快感が襲ってきて、俺はだらしなく口を開けた。ペニスの先端から熱いものがぴゅっと飛び出る。どろりとした粘性を持つ白濁によって、竜岡の手のひらが濡れた。
竜岡は舌を出して、手のひらを汚した残滓を舐め取った。
「……ご、ごめんっ。俺……そんなつもりじゃ」
「僕がイくように仕向けたのが悪い。虎ノ瀬さんは謝らなくてもいいよ」
俺を抱きしめると、竜岡はみずからのペニスを扱いた。
やがて青くさい匂いが漂ってきた。竜岡が果てたらしい。
竜岡はティッシュで手を拭いた。
「恋愛ってもっとスマートにできるもんだと思ってた。僕、最低だよね」
絶対的なライバルだと思っていた男が涙を浮かべたのを見て、俺の感情はぐちゃぐちゃになった。
「竜岡さん、そんな顔するなよ。竜岡さんはいつだって余裕たっぷりで、飄々としていたじゃないか」
「余裕なんてあるわけないだろう! 仕事は代わりがきくけど、虎ノ瀬さんはこの世にひとりしかいないんだから」
「あっ、そんな……っ、舐めないでくれっ」
はだけたシャツからのぞいている乳首を吸われて、俺は腰が砕けそうになった。
「へえ、乳首好きなんや。虎ノ瀬さん、抱かれる才能があるね」
「見ないでくれっ」
「あんたを僕のものにしたい。心も体も、全部欲しい」
「竜岡さん……」
「虎ノ瀬さん、泣いてる……。ごめんね、手加減できなくて」
竜岡が俺を抱きしめた。
男の硬い腕の中に閉じ込められている。俺は自分の身に起きたことがまだ理解できていなかった。俺は竜岡に愛されてるのか?
「竜岡さん、俺は……」
「僕の気持ちに応じることはできない。そうでしょ? 虎ノ瀬さん、震えてるもん」
「おまえとは、よきライバルで、よき相棒。そういう関係でいたかった」
「ごめん、それは無理。僕は虎ノ瀬さんを抱きたいと思ってる」
「じゃあ俺たち、どうすればいいんだよ!」
潤んだ瞳で竜岡を見上げる。竜岡は苦しげに眉根を寄せた。
「分からん。お手上げや」
竜岡は着衣の乱れを直すと、玄関へと歩き出した。
「虎ノ瀬さん。会社では今までどおりの僕に戻るから」
「……そうしてくれ」
「本当にごめん」
広い背中がドアの向こうに消える。
部屋に取り残された俺は、ベッドに倒れ込んだ。
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